直木賞作家、桜木紫乃先生の「星々たち」を読んで久しぶりに感動しました。ネタバレしますので、ネタバレお嫌な方はこれ以後読むのをおやめください。大変おすすめですので買って読まれるべきです。
さて。
この小説は、9つの短編小説からなっており、約30年間に渡る、一つの家族の大まかな物語になっています。主に登場するのは、塚本千春、という女性です。この女性の母と、その相手(父ではない)。二回結婚したその相手。一人生んだ子供、一人の詩人と、元編集者、という登場人物がおります。
桜木先生と言えば、北海道をベースにした底辺の人物を描く作家として知られていますが、今回の作品では、それに加えて、彷徨する魂を持った人々が登場します。この作品で取り上げられる人物たちは、ほとんどひとつところに留まっていられない人たちです。どこにいようと心が勝手に流れていくのです。
最初胸が大きいだけが取り柄のどちらかと言えば愚鈍で世渡りの下手な少女であった千春は、二回の結婚と一回の出産を経て、きちんとした個性を持った女性となり、詩の世界に自己実現を求めます。その詩で賞を取り、更に小説を物しようと意欲を燃やすのですが、母親のしがらみから、千春の消息をたずねに来た人物によって、大事故に巻き込まれてしまいます。
九死に一生を得た千春は、行く先もわからない筈の道東の母を頼ってバスに乗るのですが、偶然元編集者の住まいの近くで降りてしまい、彼の家で、自らの半生を語り、彼によって千春の半生は「星々たち」という小説に結実します。
最後に千春の娘が図書館の司書として登場し、彼女によって、この小説は読まれ、(もちろん彼女の母親の話だとは夢にも知りません)再び流転の人生が始まるかに思われるところで小説は終わります。
この小説を読んだ彼女は想起します。満天の星空を。星はどれも等しく、それぞれの場所で光る。いくつかは流れ、いくつかは消える。消えた星にも輝き続けた日々があります。誰も彼もが命ある星だった、夜空に瞬く、名もない星々たちだった。それが彼女の母親の話だったとは夢にも思わずに。
いや名作だと思います。小説の中で、千春の書いた詩が登場しますが、これも大変良い出来です。桜木先生が詩作されたのは、これが初めてではないでしょうか?一時期は、北海道の貧乏話ばかりで食傷していたのですが、確かに実力をつけておられる模様です。これからも楽しみに読ませて頂きます。
この書評へのコメント