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※ネタバレ注意!

ペルー・リマの士官学校を背景に描かれる権力構造の縮図。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!2級
都会と犬ども
本書のペルー、リマの士官学校の寄宿生活は、中学生のときに所属していた運動部の記憶をよみがえらせる。サッカー部は男ばっかりだ。撫子ジャパンなんて言葉は欠片もなかった。サッカー部は特定の部室がなく(というより、あらゆる運動部に部室はない)体育館の側面の出入口に通じる渡り廊下と垂直に交わる校舎のどん詰まりの廊下で着替えを済ます。廊下の窓からは体育館のカーテンがひかれた二階の窓が覗ける。カーテンがひかれたままの窓に人影がうつる。体育館の中からでは女子はカーテンに遮蔽されて着替えをしているつもりでいるのだろう。一方、閑散とした渡り廊下側には彼女たちは誰一人、無頓着なのだ。バスケ部の女子は○○なのだろうか? と思いながら、同じクラスの女子の着替えの顛末を仔細に観察する。卑下た笑いが飛び交うばかりの、男所帯のムッとするような鰻の寝床のような空間など今ではゾッとしこそすれ、戻りたいとも思わないが、得難い時間だったとも言える。戦争映画などの寄宿生活の描写は、求める求めないに関わらず、自分にとっては常に喉の渇いた集団生活の記憶とすれ違うのだ。

レオンシオ・プラド士官学校の寄宿生であるカーバはガラスを踏む。科学の期末試験の答案を盗む際、忍び込んだ夜の教室の窓を割ってしまったのだ。カーバは仲間うちの賭けに負けて、試験の盗難の実行犯に割り当てられたのである。答案用紙は仲間を通じて、他の生徒たちに売買もされていた。試験後、犯人が特定されないまま、答案の盗難が発覚した。その日の歩哨についていた、同じクラスの生徒、アルベルトとリカルドは犯人が割り出されるまで無期限の外出禁止を食らってしまう。気の弱いリカルドは教室では常に奴隷と蔑まれ、クラスで夥しい、いじめの対象とされ、すでに禁足処分は一ヶ月に渡っていた。孤立し、実家の近所に住む少女・テレサに密かに想いを寄せるリカルドは、彼女に会いたい一心でついに盗難の犯人であるカーバの密告を決意する。カーバは放校処分となり、クラスのリーダー格である、ジャガーは密告者への報復を宣言する。ある日、士官学校の野外演習が行われ、射撃訓練の誤射が確認される。頭を撃ち抜かれたリカルドは意識不明となり…。

こんなトリッキーな作品とは知らなかったので、思わず舌を巻いてしまいました。リカルドの禁足処分中、テレサと懇意となってしまったアルベルト、リカルドの事故後、とりとめのない罪悪感と対峙するような彼の行動により、物語は大きく舵を切っていく。物語は複数の視点で語られ、時間軸も前後します。倒叙ミステリーのような仕掛けもあり、誰々の視点と誰々の視点が勘違いされるように構成が練られたり、物語の求心力に配慮する著者の気苦労が凄まじい。いわゆる“意識の流れ”、一つのエピソード、視点のなかで、時間も場所も連想されるままに自在に入れ替わる話法も冴え、(文学的)臨場感と(エンタメ的)作劇の、両手に花状態で、そうそう得られない読後感を味わうことができました。
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  • 掲載日:2018/04/24
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