有名作家にノーベル賞をもたらした有名作品です。ずいぶんと前に読んだことありますが、新訳が次々と出てきたこともあり、あらためて手にとってみました。刊行から70年以上を経ていますが、小説としての魅力も、研究対象としての人気も衰えないのでしょう。この新潮文庫の新訳版も「翻訳ノート」で、読み解かれてきたいろいろな背景が解説されています。
しばらく漁に恵まれていなかった老漁師が、でかいカジキを仕留めたが、その後にサメと格闘して、・・・という大筋はおぼえていましたが、詳細はほとんど忘れていました。「老い」ももちろんですが、「魚よ」と呼びかけながら、自らの「孤独」とも闘う主人公が印象的です。それまで漁の相棒であった少年がいっしょに乗らなくなった、というのもこの孤独を際立たせます。この少年の存在はすっかり忘れていました。
私がもっと英語の文学的表現になじんでいたら、本書を英語で読み、その気分をもっと率直に受け止めることが出来たかもしれない、なんていう思いも感じてしまいました。
新訳版だけに、既に様々に重ねられている議論や研究成果が文庫版にも付されていますが、こうした付録を読んでしまうと、かえって余計なことを感じがちです。たとえば、作者が50歳前半という年齢で書かれていたということ(意外に若い!)や、初出掲載誌「ライフ」の売上げが500万部以上であったということ(すごい!)が気になってしまいます。
「老人」と銘打ってはいても、自らの「老い」の自覚などとは、あまり関係なく書かれたのであろうことも気になってしまいます(気になる女性がいたから、とか)。
ところで、私が本作をより印象深く感じてきたのは、同名の「老人と海」というドキュメンタリー映画の存在です。沖縄の与那国島の老漁師を取り上げた作品ですが、ヘミングウェイ作品を意識して制作されたものです。
原作の舞台とほぼ同じ緯度ということで与那国島が選ばれたとのことですが、淡々とした映像に見入ってしまいました。私にとっては、こちらがリアル「老人と海」です。残念ながら、この文庫版に付されている年譜はヘミングウェイ死後の出来事も掲載されいてる詳細なものですが、この映画については書かれていませんでした。ただ、ヘミングウェイが本作を見ても感動したのではないでしょうか。いや、原作を書き直したかもしれない、などと勝手に想像してしまいました。
こちらの老漁師も不漁続きでしたが、大物のカジキを仕留めた姿が最後のほうでは描かれます。そのお祝いに、妻の準備したとてもノリのきいた浴衣を着てニコニコしている姿が印象的でした。残念ながら、この映画の撮影からほどなくして、海上で亡くなったそうです。
ずいぶん前の作品で、公開当時には見逃してしまったのですが、何年も経ってからの再映され映画館で見ることができました。感動しました。今は亡き銀座シネパトスでした。原作のレビューの代わりに映画の存在を紹介しておきます。
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