「高台の家」
大学で法制史を教えている山根辰雄は、東洋史が専門で外国から見た東洋研究に力を入れており、特にロシアの東洋研究に興味をおぼえて古書店に出向いてはそういった文献を漁っていたのだが、東京の古書店で手に入れたロシア語の研究書に同じ蔵書印が押されているということがたびたびあり、気妙に前の持ち主のことが気になったことやさらに手に入れていない冊もあったため、古書店主から教えられた元の持ち主である深良(ふくら)宅に手紙を出し、来訪したい旨を伝えた。
南麻布の閑静な屋敷町の角地の高台に建つ深良宅は洋館から少し引っ込んだ先に和風の建物がつながっている大きな家で、60代の当主英之輔、10才ほど年下の妻宗子、亡くなった息子の嫁幸子が暮らしている。古書店に出された本は、息子の蔵書だった。
この高台の家は何とも奇妙な家で、若い男たちが何人も集まってきており幸子が彼らの相手をしている。彼らは亡くなった息子の友人というわけでもなく、通ってくるメンバーは少しずつ変わっているらしい。そんな噂を聞いた後日、深良家に通っていたという青年が自殺した。数日後、さらなる事件が起きた。
年老いた資産家と、その若い妻、亡くなった息子の嫁。妻も嫁も身を持て余しており、年老いた資産家の死を望んでいる。そして、資産家も、2人の密かな思いに気付いている。
3人の思惑が、屋敷の中で暗くくすぶっていた。
その、何という重さだろう。
「獄衣のない女囚」
世田谷のそのアパートは、男子棟と女子棟からなっている。男子棟の住居者は結婚するまでの一時的な住まいと考えているのに対して、女子棟は永住を覚悟で住んでいるハイミスばかりだった。ある日、住居者の1人が11時近くに風呂に入ったとき、浴槽の底に沈んでいる女性を発見した。
絞殺された女性はアパートのある女性の部屋に足繁く来ていたため、2人はレズビアンではないかと噂されていた。相手の女性に疑いの目が向けられたが、事件が続いて2人が亡くなった。
女子アパートの住居者たちは、他に行くところがなく小さな部屋で周囲の目を気にしながら生きるしかない自分を女囚と自虐していた。互いに打ち解け合うこともなく、見栄を張り合い、監視し合っている。ここもまた、重く暗い閉塞空間だった。
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