「ミレニアム」は、スウェーデンで2005年に刊行が始まったベストセラーシリーズである。全6部で完結の形を取っている。
物語自体の吸引力もさることながら、成立の背景がなかなか劇的である。
著者のスティーグ・ラーソンはもともとはジャーナリストで、本作が小説家としてのデビュー作である。しかし実は彼は、第1部の成功を見ることもなく、心筋梗塞で急逝する。その時点で3部までは執筆が終了していた。著者本人は全10部の構想を練っていたというのだが、壮大な計画は幻となった。パソコンには4部の途中までの原稿も残されていたというのだが、彼とパートナーとは事実婚であり、パートナーに法的な権利がなく、公表の目途が立たなかった。3部作の続きを執筆することになったのが、出版社に依頼されたノンフィクション作家のダヴィド・ラーゲルクランツで、作品は6部で完結となった。
本作、本国スウェーデンで大変な人気となり、訳者あとがきによると「読んでいないというと驚かれる」「読まないと職場での話題についていけない」などという声も聞かれるほどだったという。映画化もされ、ハリウッドでもリメイク版が制作された。30ヶ国以上で翻訳され、2011年6月までに全世界で3部作合計6000万部という驚異的な売り上げが達成されたという。
導入の第1部、上巻。
話の軸は2つある。
1つは本作タイトルにもなっている「ミレニアム」という雑誌に関する話。発行責任者で共同経営者でもあるミカエル・ブルムクヴィストが、大物実業家に関して書いた記事が名誉棄損と訴えられ、彼は実刑を受けることになる。経営を引くことにするが、そんな彼に、ある富豪が声をかける。それは奇妙な依頼だった。自身の一族の歴史を書いてほしい、そして過去にあった一族の少女の失踪事件について調べてほしい。そうすれば彼を訴えた大物実業家に不利になる情報を与えようというのだ。彼はその依頼に乗り、刑が執行されるまでの間に仕事を進めようと、富豪の住むスウェーデンの閑静な村を訪れる。
もう1つはフリーの調査員であるリスベット・サランデルという若い女の話。調査員としては極めて有能で、調査対象者の秘密を暴き出す能力がずば抜けている。だがその風貌は特異で、全身にタトゥーを施している。肩甲骨にはドラゴンのタトゥー。極端な短髪で鼻と眉にはピアス。きわめて痩せている。中学を中退しており、高等教育は受けていない。「危険人物」として弁護士の保護観察下にある。
この2人の道が交錯していくわけだが、I部上巻はまだ序の口という感じである。
著者は性差別の問題を強く意識しており、第1章の扉には、
スウェーデンでは女性の十八パーセントが男に脅迫された経験を持つ
とある。
そうしたことも受けてか、主役2人のキャラクター設定がなかなか独特である。著者は「美しくセクシーだが賢いとはいえない典型的な女性キャラクターの男性版としてミカエルを描き、代わりにリスベットにいわゆる”男性的”な性質を持たせた」と言っているという。確かにミカエル、何だか妙にモテる男なのである。リスベットは悪徳弁護士にひどい目に遭わされるのだが、自力で、相手にぐぅの音も出ない形で解決する。
スウェーデンの寒冷地の村の様子など、旅行気分も楽しめるところも美点か。
性暴力の描写の激しさにちょっと怯むところはあるが、確かにリーダビリティは高い。
さて、シリーズ全制覇となるかどうか、とりあえず、読み始めてみた。
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