ホラー短編集であります。作者のリゴッティは海外ではカルト的人気を誇る、評価の高いホラー作家さんなのだそうですが、その本邦初訳作品集が本書です。
さて、どんな感じかな~?
○ 戯れ
刑務所の受刑者を診る医療セクションに精神科医として勤務している主人公。
日々の仕事にうんざりしています。
特に、決して自分の名前を明かさない受刑者には辟易しているのです。
便宜上、裁判で使われた『ジョン・ドゥ』(あちらでは氏名不詳者のことを、こんな風に呼びますよね。女性なら『ジェーン・ドゥ』)。
こいつが不気味な男でして、主人公の診療上の問いかけをはぐらかしまくり、ほとんど意味のないような答しかしないのです。また、自分はいつでも出て行けるのだとうそぶきます。
ほとほと疲れ果ててしまった主人公は、勤め先を辞め、妻と娘を連れて転居することを決意するのですが……。
○ ヴァスティリアン
ある古書店でカラスのような黒ずくめの男に話しかけられた主人公。
カラス男は、手に持っていた本を書棚に指し、やって来た店主と何事かを話しながら店の奥へと消えて行きます。
何気なくその本を手に取ってみたところ、禍々しい気配が感じられます。
主人公は戻ってきた店主に、「この本を買いたいのですが……」と切り出したところ、店主はとんでもない高値を提示するのです。
断念しかけたところ、カラス男も戻ってきて、店主と再び店の奥に引っ込んでしまいます。
そうした後戻ってきた店主は、「手違いがありまして」と言い、今度は主人公でも買えそうな価格を示してきたのです。その値段ならと、主人公はその本を買って帰るのですが、実はこれには裏がありまして、最初に店主が示した値段は正しいのです。
しかし、主人公が買えないと見たカラス男は、差額は自分が負担すると言い、主人公が買えるような値段にしてやったのでした。
何故、カラス男は主人公にこの本を持たせようとしたのか?
○ 道化師の最後の祭り
民俗学(?)の研究者である主人公は、以前の同僚からミロコーという田舎町の話を聞き、そこで奇妙な祭りが行われているということに興味を持ち、もしかしたら新たな研究対象になるかもしれないと調べ始めるのです。
実際にミロコーの町にも行ってみたのですが、どうにもおかしな雰囲気の町なのです。話しかけた住民の中には非常に無気力というか、ふらふらと歩いているだけのような者も見られました。
その後、乏しいミロコーに関する文献の一つを見つけるのですが、それは主人公の大学時代の恩師が書いたものでした。ただ、正式な論文を書く前の草稿ということもあってか、内容は甚だ曖昧なものだったのです。
恩師も手がけた研究と知り、ますます興味を持った主人公は、クリスマス頃に開催されるというミロコーの祭りに参加することを決意します。フィールドワークということで、得意の道化師の扮装も用意した上での参加です。
その祭りは町中が何故か緑色の電飾等に染められ、緑一色にされています。酒を飲んで騒ぐ住民もおり、普通の祭りのようにも思えたのですが、道化師の装束をしている者は住民達から小突き回されるなど、邪険な扱いを受けているのです。
そう言えば、道化師は選ばれるのだという話も聞いていましたが、選ばれた者が虐げられる祭りということなのだろうか?
さらに祭りの様子を見ていく内に、道化師には二種類あることが分かりました。
もう一つの道化師は襤褸をまとい、まるでムンクの『叫び』のような不気味な化粧をしてふらふら歩いているだけなのです。人々はこの道化師は徹底的に無視、いや避けており、これが歩いてくると混雑していても道を開けて関わらないようにしているのです。
これはどういうことだ? 主人公がさらに調べていくと……
こ、これはラヴクラフト! 私の頭の中にはすぐに『インスマウスの影』が浮かんで来ました。話の筋はまったく違うのですが、この雰囲気はまさにラヴクラフトじゃないですか!
そうして読了したところ、末尾には『H・P・ラヴクラフトに捧ぐ』との一行が。参った!
巻末解説によると、リゴッティのデビューはラヴクラフトとその系譜の作家たちを扱うファンジンでだったそうです(さもありなん)。その後、ここ以外でも作品を発表し続け、その作品も必ずしもラヴクラフト色一色というわけでもないと解説されていますが、私は本書収録の様々な作品にラヴクラフトを感じましたよ。
もちろんその作風は現代的にブラッシュアップされており、ラヴクラフトの頃のままの古式騒然としたものから脱却を果たしています。
それでも感じるんですね~。
非常に洗練された現代的ホラーに仕上がっていると思いました。
やや甘いかなとは思いますが、私、ラヴクラフトにも興味があるので☆4つつけちゃいましょう。なかなかのホラーではないでしょうか。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める)/242ページ:2026/03/23
この書評へのコメント