全体像ではないが、表紙絵に映っているのは牧神=パンで、Panic(原題)の語源でもある。そして同時に、Panとはギリシア語で「全て」を意味する。舞台となる山荘には牧神の像があり、文字通り全てを見ていた目撃者と言える。
アリスンの伯父が急死し、彼女は陸軍情報部の大佐から伯父が軍のために戦地用暗号を開発していたと聞く。その後、山中のコテージで一人暮らしを始めたアリスンの周囲で、次々に怪しい出来事が…。
何の能力も持たず組織に属してもいなかったヒロインが、渦中の人物の近くにいたばかりに、今度は自分自身がその渦に巻き込まれてしまう「巻き込まれ型」ミステリ。アリスンは従兄の勧めで老犬のアルゴスを連れてオールトンリーという人里離れた山間のコテージに移り住む。頼れる探偵ベイジル・ウィリング博士が登場しないノン・シリーズなので、ヒロインが自力で事件を解決し、姿を見せない不審者とも対決しなければならない。体が弱く老犬しか頼れないヒロインには、かなりハードルが高い。おまけに、元カレと元カレの結婚を阻んできた姉が偶然近くに住んでいて、プライベートでも雑音がうるさい。さあどうなる?
後書きも含めてかなりのページ数が暗号解読に割かれているが、それ以外の部分を読めば、犯人は比較的分かりやすい。
ヘレン・マクロイ作品
歌うダイアモンド
ベイジル・ウィリングシリーズ
月明かりの男
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幽霊の2/3
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