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自転車に乗る。ついーっと買い物に行けて便利である。ところで自転車にはタイヤがなくてはならない。当たり前か。しかし「丸いものを転がすと少ない力でうまく運べる」こともいつか誰かが発見したのだ。自転車の発明は本書によると19世紀だが、自転車のフレームを作るには金属を発見し、加工する技術を生み出し、それを次世代に伝えてこなければならなかった。
さらに私の元に届くためには自転車が貴族の乗り物であってはだめで、「ある程度お金を出せば誰でも買える」社会が成立し存続する必要がある。それでも高価なら買えないから、安価に流通しなければならない。そのためには工場が必要で、学校が必要で、文字が必要で……気が遠くなるほどの過去がそこには詰まっている。
本書は小学生を主な想定読者とする歴史の本である。見開き1ページでワンテーマ。左側にイラスト、右側に説明文が書かれており、説明文にはルビが振られている。
宇宙の誕生から始まっていることに驚かされるが、メインとして扱われる内容は技術革新と政治である。技術革新は打製石器から生成AIまで、政治は2026年2月のアメリカによるイラン攻撃までが収録されている。
本書は技術革新が単に「便利になる」ことを超えて世界観や社会のあり方を変えることを強調する。蒸気機関車が発明されればこれまで行けなかった場所は行ける場所に変わり、会えなかった人は会いに行ける人になる。さらに「距離は超えられない障壁ではない。優れた機械を発明すれば超えられる」という世界観を当時の人に与えたかもしれない。
一方でこれまで支配できなかった場所に軍隊を派遣することも可能になり、これまでなら起きなかった戦争も起きる。技術革新は人間の課題を解決するとともに新たな課題を生み出したのだ。
政治についてはいささかヨーロッパ史に偏っている気もするが、科学技術史とのつながりを意識したものであろうか。とはいえアメリカ大陸の征服やイスラエル建国などのページに非ヨーロッパ世界からの視線を見ることができる。
本書は「歴史の見方は一つではない」ことを強調する。アメリカ大陸の発見はヨーロッパ世界にとっては文字通り「新世界」の獲得だったが、先住民にとっては侵略や虐殺だった。小学生が「誰かにとっては素晴らしい成功でも、別の誰かにとっては苦難の始まりだったかもしれない」と考えることができるよう工夫されている。
一方で「虐殺はあったけど、それによって幸せになった人もいるんだから仕方ないよね」「歴史の見方は人それぞれで『悲惨な事件だった』というのも感想のひとつに過ぎないよね」という見方に陥ってはならないことも強調される。巻末の資料には各国が他国と協力して歴史教育をしようとした際の成功例と失敗例も載っており、大人が読んでも新鮮で面白い。
ルビが所々間違っていることは本書の欠点と言わざるを得ないし、参考文献がウェブサイトに偏っていることやイラストにAIが使われていることは賛否があると思う。だが、小学生にとってニュースは難しく、歴史の授業は必ずしもわかりやすくない。世界がなぜこのような形で存在するのかを知り、これからの世界がいかにあってほしいかを考える上で本書は大きな助けになるだろう。
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