2つの小説が収録されている。
・三月の局騒ぎ 主人公の若菜(女性)は京都の大学に入学して寮生活を始める。複数の大学の学生が入れる寮である。名前は「北白川女子寮マンション」という。寮生のことを「女御(にょご)」と呼び、寮の西側の建物は「薔薇壺」、東側の建物は「棕櫚壺」と呼ばれている。この寮では、新入生は一部屋3人で共同生活をする。
二回生になると、二人部屋での生活になる。この寮では部屋のことを「局(つぼね)」という。
この寮で一番の古株はキヨという学生だ。どこの大学の何学部なのか、何回生なのかを誰も知らないらしい。しかし、一回生の時に同室だった椎ちゃんによれば、12回生らしい。大学には8年間いられて、休学は4年間できるので、12回生もあり得るのだ。だが、さらに話を聞くと、キヨは14回生以上の可能性もあるというのだ。
若菜は3回生になった時、その「キヨ」と同室になる。
少しでも親しくなろうとして話しかけるのだが、最初は口を利いてもらえなかった。しかし、偶然キヨが「猫の耳の中」というサイトを作っているのを知り、読んでみると上質のエッセイと言っていい内容だった。
結局、キヨは何者か分からないまま姿を消す。若菜は後に、あの超有名な人物だったのではないかと思い至る。いかにも著者らしい話の展開とオチである。少しSF的な要素もありながら、読後感のいい短編になっていた。
・六月のぶりぶりぎっちょう 滝川は高校の女教師である。3つの高校で行う合同研究発表会にソフィーという新米英語教師を連れて行くことになった。場所は京都である。滝川は歴史を教えている。岡嶋藤吉郎という教師(社会科)も加わり、ソフィーを案内する。
ぶりぶりぎっちょうというのは、正八角形(十面体)の木でできた筒のようなものである。安土桃山時代に子どもたちがこの筒に紐を結んで振り回し、球を打ち合って遊んだらしい。
ソフィーを京都に案内している中で、滝川はある易者に出会い、模様を書いた半紙を受け取る。そこから、信じられないような出来事に巻き込まれていく。
そこはいきなり銃を突きつけられ、命の危険を感じるようなシチュエーション。どうやら「本能寺の変」の現代版のようだが、著者独自のアレンジを加えて読み応えのある小説にしている。しかも、密室殺人まで出てきて、推理小説のテイストまで入っている。
直木賞を受賞した「八月の御所グラウンド」のシリーズ2作目らしいが、万城目ワールドを堪能できる上質のエンターテインメントになっていた。
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