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なかなか鮮やかなミス・マープルの推理なんだけれど……

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
鏡は横にひび割れて
 以前レビューした『アガサ・クリスティー完全攻略』 で、クリスティーの全作品ランキングの7位にランク・インされていた作品です。
 私は未読だったため、「どれ、読んでみようか」ということで図書館から借りてきました。

 私は、ミス・マープルものは短編でいくつか読んだことがあるだけで、長編は今回が初めての読書でした。
 今回の事件は、マープルが住むセント・ミード村にある旧家を改築し、そこに越してきた女優のマリーナとその夫を巡る事件です。

 この改築なった屋敷で野戦病院協会の催しが開かれることになり、マリーナ夫妻も屋敷を開放することになったため、近隣住民たちが押しかけていました。
 女優にも会いたかったし、あの屋敷がどの様に豪華に改築されたかも見たいということなのでしょう。

 マリーナ夫妻は、主だった客を屋敷の中に招いてもてなしていました。
 そんな中に、協会の幹事を務めていたヘザーという女性もいたのです。
 ヘザーは、親切と言えば親切な女性なのですが、ややおせっかいなところもあり、また、他人の心情を慮るようなことができず、自分のことばかり主張するような女性ということで衆目の一致するところでした。
 そのヘザーが、マリーナの夫から渡されたカクテルを落としてしまうのです。
 マリーナは、すかさず口をつけていない自分のカクテルを差し出しました。
 ヘザーはそのカクテルを飲んだ途端、具合が悪くなり間もなく亡くなってしまったのです。

 死因は薬物死でした。
 どうやらカクテルに致死量以上の薬物が入れられていたようなのです。
 その薬物は比較的簡単に手に入るもので、マリーナも常用しており、屋敷のあちこちに置いてあるものでしたし、適量であればよく効く薬だったことから沢山の人が使っている薬でした。

 ヘザーは確かにおせっかいな女性ではあったにせよ、それが理由で殺されるほどの恨みを買っているわけではありませんでした。
 むしろ、いきさつからすれば犯人はマリーナの毒殺を狙って薬物をカクテルに仕込んだものの、偶然それがヘザーに渡ってしまい、ヘザーが亡くなったと考えるのが筋のように思われます。
 マリーナには敵と言えば言える者がいないわけではありませんでしたし。

 色々調べて行くと、マリーナはヘザーが長々と「昔お会いしたことがあるんですよ」などという話をしている途中で、視線をヘザーの後ろに向けて凍り付いたような表情をしていたことが何人かに目撃されていました。
 また、その場にはカメラマンも呼ばれていたのですが、確かに凍り付いたような表情をしているマリーナの写真が撮影されてもいたのです。

 本作のタイトルは、マリーナのそんな凍り付いたような表情が、テニスンの『レディ・オブ・シャロット』という詩にうたわれている情景にそっくりだったという証言に由来してのものです。
    鏡は横にひび割れぬ
    あぁ、我が運命もつきたり
という、まさにそんな表情だったというのです。

 その後もさらに殺人事件が発生するのですが、すべての事件の謎は最初のヘザー殺害事件に集約されていると思われます。
 そして、本作の謎は、誰が犯人かというフーダニットであると共に、何故犯行に及んだのかというホワイダニットに重きが置かれています。
 マープルは、この謎(特にホワイダニットについて)を鮮やかに解き明かすのです。

 それはそうですし、確かにホワイダニットに関してはなかなか魅力的(という言い方はどうかとも思いますが)な動機を提示しています。
 ですが、私はミステリとしてはあまり高くは評価できないと感じました。
 というのは、マープルが真相にたどり着く過程が、ほとんど当て推量の域を出ないように思われたからなのです。
 何か具体的な証拠や根拠があっての論理的な推理とは思えませんでした。

 また、その動機で殺人に及ぶということは理解できますが、ただ、本作のような状況で、そこで殺人に及ぶか?というと、それはあまり納得できない点でもあったのです。
 また、ヘザー殺害の後に続く連続殺人(まだあと3人も殺されるのです)に関しては比較的容易に動機が推察でき、また、ちょっと荒く展開したかなという感も残りました。
 最後の殺人に関しては、クリスティーは大サービスで犯人を謎解きの前に堂々とほのめかしてしまってもいますし(もう、ここまで来たら謎は解けたも同然ということなのでしょうか?……しかし、最初のヘザー殺人の動機は最後までちょっと思いつけないと思うんですが)。

 その辺りにあまり拘泥されない読者であれば、マープルが示した解決はそれなりに魅力的なものですし、また、クリスティーお得意のミス・リーディングも使われていますのでそれなりに評価されるかもしれませんが、私としてはやや物足りなさを感じました。

 仮に、このプロットをクイーン辺りが書いたとすれば、必ずきちんとした手がかりを示し、そこから論理必然の推理を展開しただろうと思えてならないのです。
 それはマープルのスタイルではないと言われればその通りですし、どういうタイプのミステリを好むかという趣味の問題なのだと思いますが、私の趣味にはあまり合わなかったのです。
 少なくとも、本作がクリスティーのベスト7位という点は、私個人としては同意しかねるところでした(少なくとも、『アクロイド』、『ABC』、『オリエント急行』、『そして誰もいなくなった』より上位とは私の感覚とは違うなぁ)。


読了時間メーター
□□□     普通(1~2日あれば読める)
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  • 掲載日:2018/07/09
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この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2018-07-09 20:42

    こんばんは。この作品はよくテレビドラマや映画になりますね。

  2. ef2018-07-10 03:03

    やっぱり人気があるんでしょうかね?

  3. 星落秋風五丈原2018-07-10 20:25

    こんばんは。この話は女優、監督など業界の人が出てくるのでスター俳優を出しやすかったし、キャラ立てしやすかったのかもしれませんね。

  4. ef2018-07-12 21:21

    クリスティの作品は、大物俳優オールスター・キャストに仕立て上げやすかったり、そういう理由で映画化したいという魅力があるのかもしれませんね。

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