本書が発刊されたのは2022年、つまりトランプ氏の2期目の当選前だが、現状をみごとに言い当てている。なぜアメリカ人はポピュリスト(大衆迎合主義者)であるトランプ氏を2度も支持したのか、そして、かつて第二次世界大戦で戦勝国となった欧米諸国が揃ってポピュリストの台頭を招いているのは何故か。本書では、アメリカで教鞭をとる大学教授の目線から、それらの謎を解き明かす。
むろん、日本国内でもこれらの現象は言及されるし、トランプ氏の二期目の当選は驚きをもって報じられた。だが、筆者によると現地では、日本で報じられるほど意外性はなかったという。というのも、扇動的ポピュリズムの台頭はテクノクラート新自由主義者が跋扈した現在の「病気」に反応して現れた「症状」であり、両者は分かちがたく結びついているからだ【イントロダクション|p30ほか】。
そして、「症状」であり「処方箋」ではないため、トランプ政権によって「病気」を完治することは不可能だ、と著者は断じる。では、治療するにはどうすればよいのか。著者はその方法として、民主的多元主義という考え方を提示する。ざっくり言うと、政治・経済・文化の分野で経済的に支配する管理者層と、人口的には圧倒的に多数派である労働者層の間で仲裁役を担う「中間組織」が力をもち、多数派の不満を解消するという考え方だ。「中間組織」の具体例として、本書では労働組合や教会等を挙げている(日本でいう農協などもここに含まれるだろう)。
しかし、私は民主的多元主義の実現は困難だと感じた。なぜなら、第3章 「世界大戦とニューディール」で筆者自身が述べている通り、民主的多元主義がかつて台頭した経緯には「第一次・第二次世界大戦」という対外的かつ強大な国家的脅威があったからである。各国が戦時体制になる中で、兵士ないしはそれを支える人々の「数の確保」と「質の確保」に迫られ実現した考え方なのだ。逆にいうと、そのような危機的状況下に陥るまでは階級格差はなくならず、危機が去った後は再び階級格差が深刻化し今に至る。
そもそも、民主主義と資本主義は相容れない。万人が権力を等しく持つ民主主義と、市場経済の開放を旨として、金を稼げた者が偉くなる資本主義は根本から矛盾する考え方だ。前者は平等な社会の存在が、後者は格差の発生が必然である。故に資本主義が進めば進むほど、格差は拡大し民主主義が揺らぐことは想像に難くない。
私が学生の頃は、独裁国家ではないあらゆる「民主的な」国々が民主主義と資本主義を両立させているとうたっていたが、2025年現在はそれにひずみが生じてきている。その結果が現代のポピュリストたちを生んでいるのではなかろうか。
歴史を振り返ると、多数派の労働者が少数の為政者・管理者に抗い力をつけるための手段は革命による権力の反転か、対外危機による協力だった。「中間組織」に再び力をもたせるという比較的穏便なアイデアを実現させることができれば、確かに格差はある程度是正されるのだろうが、現実的な考えだとは思えない。労働組合の多くが「御用組合」に成り下がり、かつ農協の解体論まで飛び出している現代日本を見るとなおさらそう感じる。
それでも、極端なやり方ではなくして格差を是正する方法はないのか。これからの時代を生きる私たちは、考え続けなければならないのだろう。頭を空っぽにして為政者の言葉に従う資本主義のパーツではなく、生身の人間として一生を終えるためには、「考えることを諦めない」ことが大切だ。私はそう信じてこれからも考え続けるつもりだ。
(書評執筆日:2025年6月29日)
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