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秘密は壁の中に埋まっている。(「壁の中」より)

作家、アンソロジストである井上雅彦が監修し、1997年から刊行が続くホラー・アンソロジー・シリーズ〈異形コレクション〉。このシリーズは、編者である井上が各巻ごとにテーマを設定し、そのテーマに沿った新作短篇の執筆を依頼、それをアンソロジーとして編纂するもので、その第51巻となる本書のテーマは「秘密」だ。政府がしゃかりきになって国家のインテリジェンス・スパイ防止関連法制に突き進もうとしていることもあって、これを選んでみた。
〈秘密〉を意味する古代ギリシャ語は、「ミューステリオン」。
とりわけ、想像を絶する秘密、神秘、人智を超えた〈秘密〉を意味する言葉です。
これがラテン語に変ずると「ミステリウム」。
(中略)この言葉は「ミステリー」の語源となるのです。推理小説のタイトルなどでMISTERYは「秘密」とも「謎」とも訳されますが、そもそも「ミステリー」という単語は推理小説の意味だけに限定されず、それ以前の「ゴシック・ロマンス」の時代から、怪奇現象や不可思議な事象をも指す単語でもあったわけなのです。
〈秘密(ミステリー)〉が、非日常を想起させる言葉であることは確かです。
古語といえば、もうひとつ。これも非日常を感じさせる言葉である「オカルト」。この語源もラテン語のオカルタ(occulta)が「隠されたもの」を意味する言葉であり、これも〈秘密〉を意味するものです。(「編集序文」より)
とはいえ、ミステリやホラーに限らず、小説というものは多かれ少なかれ何らかの「秘密」を描いたものである。その意味では「秘密」というお題は実は「何でもあり」に等しいとも言え、何を「秘密」にするのかも含めて、書き手の技量がモロに出てしまうテーマである。
さて、本書に収録された作品は16篇。それらにはどんな「秘密」が隠されてるのか?

収録作はいずれも水準以上のものだが、その中から選んだ何篇かについて私自身の簡単なコメントを。

エドガー・ポーの「黒猫」や「アッシャー家の崩壊」などを彷彿とさせるのが、冒頭に置かれた織守(おりもり)きょうやの「壁の中」。作中でも「黒猫」について繰り返し言及され
秘密は壁の中に埋まっている。
という1文まである。
コロナ禍で書かれた黒澤いづみの「インシデント」は、〈異形コレクション〉版『生物と無生物のあいだ』か? また同じように小中千昭の「モントークの追憶」は、当時よく囁かれた各種陰謀論が満載の衝撃作。いまだにこんなこと信じてるヤツ、いるんだろうか?
ミステリとしての趣向も持つ斜線堂有紀の「死して屍(しかばね)知る者無し」は、残酷な怪異譚。「死して屍(しかばね)拾う者無し」という有名なナレーションの昔の某時代劇とは全然関係ない話だが、絶対これがタイトルの元ネタだww。
この〈異形コレクション〉は一応(?)ホラー・アンソロジーなので、収録作は基本「怖い」話なのだが、中井紀夫の「明日への血脈」や山田正紀の「嘘はひとりに三つまで」は怖くない「奇妙な味」の話。特に「嘘は~」は「ダジャレかよ!?」。
収録作の中で私が一押しする雀野(すずめの)比名子の「生簀(いけす)の女王」も、いわゆるホラーではなく怪異譚だが、単に「奇妙な味」だけではない、本当に味わい深い一品。
掉尾を飾る平田夢明の「世界はおまえのもの」はW・W・ジェイコブズの「猿の手」のバリエーションの作品だが、「猿の手」より残酷かも。ところで平田も井上も気づいているか? 物語の中では成就しなかった“あの予言”はちゃんと成就したことを。フィクションではなく現実の中で。
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  • 掲載日:2026/04/14
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