出すシリーズ全てベストセラー、クオリティも高くあっという間にAMAZONレビューにずらりと「☆☆☆☆☆」が並ぶ大人気作家。そんな松岡圭祐が水鏡推理シリーズをしばらく休み、最近は単独作に取り組んでいるのはファンなら承知の通り。
まずは歴史小説「黄砂の籠城」を4月に上梓した後、息つく暇もなく6月に発表したのがこの作品。更には今月「八月十五日に吹く風」を発表した。もう絶好調としか言いようがない。松岡にスランプなしである。こういう作家を抱えていると出版社も安泰である。
ちなみにこのサイトでも以前のサイト同様松岡ファンは多いようで、風竜胆さんやmior morさんもたくさんレビューされておられるし、サフランさんという方も二つレビューしておられる。ちなみにサフランさんは「水鏡推理 クロノスタシス」の中で本書を「傑作」と絶賛しておられる。全く同感である。
そしてこの作品も既にかなめさん、Jun Shinoさんという凄腕レビュアーが詳細なレビューをされている。もう私の出る幕もなさそうなほど優れたレビューで今更恥ずかしい限りだが、私も一応松岡ファンの端くれ、新刊も出たことだし(積読が多いのでレビューはまだまだ先になりそうだが)本作の魅力の一端だけでも紹介しておこうと思う。
まずはシャーロック・ホームズがモリアティ教授とともに滝底に転落した頃、日本では「大津事件」が起こっていたという(浅倉絢奈のラテラルシンキングとはちょっと違うかもしれないが)着目点が凄い。日英とはるか離れた二国を結びつけ、大津事件をシャーロック・ホームズに解決させようとは誰が考えるだろうか!?この時点でもうこの作品の成功は約束されたも同然であり、実際見事なプロットとトリック、手に汗握るアクションシーンも用意され、とても良い出来である。
ちょっと話を戻すが、最初のアイデアを思い付いた後、松岡はさらにロジカルに構想を進める。
では逆にシャーロック・ホームズの時代にイギリスに渡った日本人はいたのか?いたのである。伊藤春輔、後の伊藤博文である。彼が密入国していた頃、ホームズは10歳。この二人を引き合わせ、なおかつ春輔が英国内では言うに言えないことをホームズに隠していたが、あの頭脳を持ったホームズならほどなくしてそれを調べ上げるだろうという設定もうまい。
そしてこの二人の優れた点はたくさんあり過ぎるので、松岡は欠点の方に注目する。シャーロック・ホームズはよく知られているように麻薬中毒だった。一方の伊藤博文は度が過ぎる女好きであった。当然の如く二人は出会うわけだが、上述の隠し事でホームズは初めから伊藤に不信感を持っている上に、この二点で反目しあう。しかし松岡は二人に暖かい視線を注ぎ、憎いラストを用意する。
更には松岡得意の精密で詳細な情報収集も忘れない。大津事件に関してとてもよく調べている。ロシア皇太子を助けたとされる二人の車夫のその後なんて普通誰も注目しないだろうこともきっちりと調べ上げており、感心することしきりである。
あえて瑕疵を挙げるとすれば題名。ホームズと博文は反目はしていても対決するわけではないので、かなめさんも書いておられたが、この題名はおかしい。
まあそんなことはともかく、松岡圭祐ファンのみならずシャーロッキアン、歴史小説ファンにもご一読いただきたい作品である。ゆめゆめライト・ミステリだろうと侮るなかれ。
というわけで題名で☆一つ、まだまだ凄いものが書けるはずという期待からもう一つ減らして、やや辛口ではあるが☆3つとさせていただく。
最後に勝手に名前を出させていただいたレビュアーの方には失礼いたしました。同じ松岡ファンとしてご容赦いただければ幸いです。
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