darklyさん
レビュアー:
▼
MASTERキートン原作者による醍醐真司シリーズ第二弾。ミステリの形を取りながらも物語に通底する漫画哲学とも言える蘊蓄が楽しい。
本短編集は副題にある通り、醍醐真司という漫画編集者を主人公とするミステリです。と言いましてもかなり変わった構成となっています。4つの短編が収められていますが、「消えた漫画家」と「闇の少年」は基本的に同じ事件を題材にしたミステリであり、「邪馬台国の女帝」と「天国か地獄か」は独立したものです。
しかし、「天国か地獄か」はある種のコージーミステリと言えるものであるのに対し、「邪馬台国の女帝」についてはほぼ邪馬台国に関する醍醐(つまり長崎さん)の知識や自論の展開がほとんどでありミステリ要素はほぼありません。
にもかかわらず、4つの話は内容的にも時系列的にも重なっており、かつ互いに影響しあっている、もっと言えば別の事件のヒントが何気なく他の話に紛れ込んでいるというかなり手の込んだ短編集となっています。
短篇集の核となる「消えた漫画家」と「闇の少年」についてご紹介します。
【消えた漫画家】
ホラー漫画家椋洸介は伊藤潤二と共に楳図かずおの後継者と目されている。その椋がもう漫画は描けないとメールを残し失踪した。困った編集者は初代の編集者であった醍醐真司に相談する。醍醐は残された八枚の画から椋のデビュー作「闇の少年」との関連を疑う。「闇の少年」とは小学生の主人公が友達二人と無人の屋敷の蔵にいる同い年ぐらいの少年を発見するが、その少年は死人であり、化け物であるという話である。もちろん完全フィクションであるが、実は椋が少年時代に経験した実話がその下敷きとなっている。果たして椋はどこに消えたのか?
椋を探すというミステリの部分についてよりも、醍醐を通じての作者長崎さんのマンガに関する自論が面白い短編です。例えば、椋のセリフで
【闇の少年】
椋が少年時代を過ごした福岡県で三十年程度前と推定される少年の白骨死体が発見された。そして椋と共に屋敷の蔵の少年を発見した友人の一人が奇妙な自殺を遂げる。椋は醍醐に福岡に一緒に行き調査してくれないかと懇願する。椋たちが発見した蔵の中の少年とは誰だったのか?そして友人の自殺との関連は?そしてその当時その地方で土地の収用を巡る詐欺事件が頻発していたのだが、それとの関連は?
哀しい真相に辿り着いた醍醐は逡巡します。動機は同情できるし、裁くには犯人の過去が悲しすぎる。人としては見逃がしたい。しかし「邪馬台国の女帝」の主人公である朝倉ハルナはこう言います。
なんといっても醍醐役の古田新太さんがこれ以上ないほどハマっています。本短編集を読んでいても醍醐が話す場面では頭の中で必ず古田さんが登場します。クセが強すぎて御しがたく組織には馴染まないが、正に博覧強記であり、そして人情味があって熱血漢の部分も併せ持つ。長崎さんが古田さんをイメージしてキャラ設定したのではないかと勘繰ってしまうほどです。
しかし、「天国か地獄か」はある種のコージーミステリと言えるものであるのに対し、「邪馬台国の女帝」についてはほぼ邪馬台国に関する醍醐(つまり長崎さん)の知識や自論の展開がほとんどでありミステリ要素はほぼありません。
にもかかわらず、4つの話は内容的にも時系列的にも重なっており、かつ互いに影響しあっている、もっと言えば別の事件のヒントが何気なく他の話に紛れ込んでいるというかなり手の込んだ短編集となっています。
短篇集の核となる「消えた漫画家」と「闇の少年」についてご紹介します。
【消えた漫画家】
ホラー漫画家椋洸介は伊藤潤二と共に楳図かずおの後継者と目されている。その椋がもう漫画は描けないとメールを残し失踪した。困った編集者は初代の編集者であった醍醐真司に相談する。醍醐は残された八枚の画から椋のデビュー作「闇の少年」との関連を疑う。「闇の少年」とは小学生の主人公が友達二人と無人の屋敷の蔵にいる同い年ぐらいの少年を発見するが、その少年は死人であり、化け物であるという話である。もちろん完全フィクションであるが、実は椋が少年時代に経験した実話がその下敷きとなっている。果たして椋はどこに消えたのか?
椋を探すというミステリの部分についてよりも、醍醐を通じての作者長崎さんのマンガに関する自論が面白い短編です。例えば、椋のセリフで
ホラーマンガはギャグマンガに通じていて、ちょっと読者をおちょくったりしてますから、伊藤(潤二)さんもわざとやってらっしゃる可能性があると思います。とありますが、正にその通りで、楳図かずおや伊藤潤二のホラーには結構笑える場面が多いです。わざとやっているのか疑問に思っていましたがやっぱりわざとなのかと納得しました。ついでながら、同じホラー漫画家でもつのだじろうさんはちょっと違うような気がします。彼の作品には笑いの要素はほとんどありません。楳図さんや伊藤さんが純粋なホラー漫画家であるのならば、つのださんは、ホラー漫画家と言うよりも心霊研究家なのかもしれません。
【闇の少年】
椋が少年時代を過ごした福岡県で三十年程度前と推定される少年の白骨死体が発見された。そして椋と共に屋敷の蔵の少年を発見した友人の一人が奇妙な自殺を遂げる。椋は醍醐に福岡に一緒に行き調査してくれないかと懇願する。椋たちが発見した蔵の中の少年とは誰だったのか?そして友人の自殺との関連は?そしてその当時その地方で土地の収用を巡る詐欺事件が頻発していたのだが、それとの関連は?
哀しい真相に辿り着いた醍醐は逡巡します。動機は同情できるし、裁くには犯人の過去が悲しすぎる。人としては見逃がしたい。しかし「邪馬台国の女帝」の主人公である朝倉ハルナはこう言います。
漫画が生き残った理由は、やっぱり悪は悪、善は善・・・そこの基準だけは、曲げなかった作品が多かったからだと思わない?あたしのキャラクターも、それをすることで、どんなに悲しいことになるかわかっていても、・・・心を鬼にして、悪は悪だと糾弾すると思うの。だってそれが、マンガを生む人間の務めじゃない。作者の長崎尚志さんと言えば浦沢直樹の名作「MASTERキートン」の原作者として認識しておりましたが、小説家として認識したのが、本シリーズの第一作目であり、WOWOWで放送されたドラマ「闇の伴走者」を様々な意味で衝撃をもって観た時です。このドラマは本書のように漫画編集者である醍醐が漫画に関する蘊蓄や鋭い分析を絡めながら猟奇殺人を解決するというミステリなのですがWOWOW史上個人的には三本の指に入る出来だと思っています。またドラマ第二弾「編集者の条件」で題材となった手塚治虫の「奇子」に興味を持ち、以前書評をかかせていただいています。
なんといっても醍醐役の古田新太さんがこれ以上ないほどハマっています。本短編集を読んでいても醍醐が話す場面では頭の中で必ず古田さんが登場します。クセが強すぎて御しがたく組織には馴染まないが、正に博覧強記であり、そして人情味があって熱血漢の部分も併せ持つ。長崎さんが古田さんをイメージしてキャラ設定したのではないかと勘繰ってしまうほどです。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
- この書評の得票合計:
- 39票
| 読んで楽しい: | 10票 | |
|---|---|---|
| 参考になる: | 29票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:421
- ISBN:9784101268521
- 発売日:2017年09月28日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















