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ゆうちゃん
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変わった救世主ドンと彼に弟子入りするリチャードの話。ドンは救世主で奇跡を起こす能力を持つが、人助けにあまり関心がない。「俺たちは好きなことを何でも自由にやっていいんだ」がモットーである。
中学生の頃にラジオドラマで聴いたことのある物語の原作。
全米各地をフリートという複葉機に1回10分で客を乗せて遊覧飛行をして回ることを商売とするリチャードがドナルド(ドン)・シモダという同業と出会うことで始まる物語である。彼が乗っているのは、トラベル・エア4000という年代ものの複葉機だが、5週間も乗っているのにまるで新品である。飛行機の乗りそうもない女の子が彼の飛行機に乗り、人生に希望を見出して降りてゆく。そしてリチャードはドンが、救世主だと言う事に気づく。この救世主はとても変わっていて、人助けなどに関心が無さそうである。「救世主はつまらない仕事」というし、彼の主張は一貫して「俺たちは好きなことを何でも自由にやっていいんだ」というものだった。この世は「イリュージョンだ」とも言う。生活のために働く、戦争に駆り出される、それもドンに言わせれば、他に選択肢があるのに当人は好んでしていることだという。リチャードは、最初はこの考えに馴染めなかったが、徐々にドンに感化され救世主になる訓練を受け始める。救世主入門なるテキストがあり、それは格言集のようなものだった。ある町でドンとリチャードは、珍しいジプシー飛行士ということでローカル・ラジオのトーク・ショーに出演する。そこはドンの独断場になり、自分は救世主だということこそ述べなかったが、彼は従来の主張「俺たちは好きなことを何でも自由にやっていいんだ」を展開する。放送局には抗議の電話がかかり続け、草原に止めてあったリチャードとドンの飛行機の周りには群衆が詰めかける。

一読してよくわからない話だった。余韻がある話といえなくもないが・・。ラジオドラマでは少し脚色がしてあって結末がちょっと違うのだが、それでも実はラジオで聴いた時もよくわからない話だった。ドンの哲学は救世主の哲学とは言えないが、分かり易いと言えば分かり易い。だがそこから何か価値のあることが導けるのかがよくわからない。そんな風に考えること自体ドンの哲学から外れるのかも知れないが。おそらくドンの言う「好きな事」とは「人生の目標とする価値があること」、「自分が心から好きになること」なのかも知れない。リチャードの夢は、機械無しでスーパーマンのように空を飛ぶことである。ドンはその夢を否定しない。人生、そのような「価値のある好きな事」を見つけるのも大変なのだろう。本書の冒頭でリチャードがドンに会う場面、偶然を装ってはいるが、実はドンがあらかじめ仕組んだことのように受け取れる一節がある。もしかしたら、飛行という「心から好きなこと」を既に見つけているリチャードについて、ドンは既に見所のある奴と思っていたのかも知れない。
だがそうだとしても実は、本書の結末がよくわからない。救世主入門の格言めいた言葉は本書に度々引用されているのだが、その最後の引用の文章を読むと、「馬鹿にするな!」とこの小説を放り出したくなる。著者はそれを狙ったのかも知れない。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1697 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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