書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

DBさん
DB
レビュアー:
僭称者の語るロマノフの本
ヴァージニア州シャーロッツビルに住むマナハン博士の妻であり、旧姓をアンナ・アンダーヒルという女性に著者が会いに行くところからはじまります。
おしゃれよりも着心地を優先したカラフルな色の組み合わせの服に、化粧っけもなく深い皺が刻まれた顔のなかで青い目が印象に残る老女。

彼女こそがロマノフ王家の生き残り、最後の皇帝ニコライ二世の第四皇女アナスタシアであるという確信を抱いた筆者が、遺産がらみでそれを否定する人々への反論として書き上げた本です。
著者がマナハン夫妻に最初に会いに行ったのは1972年、そこから何年かかけてインタビューを続け、おそらく80年代くらいに本にしたのだと思う。
なので当然決定的なDNA鑑定など知るわけもなく、賛否両論の意見を取り上げながらもマナハン夫妻の主張よりに話は進んでいく。

否定する人たちはアンナを詐欺師として中傷することで事実を否定しようとし、それに対する筆者の感情も行間にありありと読み取れるようなものなので、ドキュメンタリーというには程遠い。
そして真実を書こうとしたのか精神を病んだアナスタシアの言葉や様子を綿密に記録していく。

アナスタシアの両親であるニコライとアレクサンドラの恋愛と結婚からはじまり、嫁姑問題や男子がなかなか産まれない悩み、宮廷での一家の様子が語られます。
ラスプーチンが出てくるのと、彼が皇帝夫妻にコカインを与えていたのが興味深い。
そして1917年の革命と皇帝一家惨殺の日がやってくる。

アンナ・アンダーヒルが現れるのは1920年のベルリン、身元不明の女性が自殺未遂をして精神病院へ入れられた時からだ。
周囲にアナスタシアだと言われるようになり、本人もそれを信じきったのだろう。
支援者に勧められるまま、ロシア帝室の財産を請求する裁判を起こすことで事態はより複雑になる。
支援者に言わせれば、この財産の帰属問題があるからアンナ・アンダーヒルがアナスタシアであることを認めようとしない人たちがいるという理論でした。

結果を知ったうえで読めば、何十人といた自称アナスタシアたちのなかでなぜ彼女が最後まで残ったのかがわかるのですが。
夫となったマナハン博士をはじめとする支援者たちがアンナ・アンダーヒルをアナスタシアであってほしいと願っていたこと。
もちろんマナハン博士のように自分への箔づけであったり、皇女が悲惨な死を迎えたという現実より実は生きていたという虚構の方が受け入れやすかった人もいるだろう。
そしてアンナ・アンダーヒルは周囲の期待に無意識のうちに応えるタイプの人間だったんだろう。
貧しいポーランド人の出稼ぎより、消えた皇女でありたい気持ちもわからなくはない。
結局、歴史のミステリーというよりはなんちゃって陰謀論ができるまでの本にしか思えなかった。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2028 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

読んで楽しい:1票
参考になる:27票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. 風竜胆2021-02-15 15:30

    この本は、積読山のどこかに・・・・・w

  2. DB2021-02-15 17:46

    上梓された当時なら面白く読めたかもしれませんが、結果がわかった今読むと…

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『アナスタシア―消えた皇女』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ