実を言うと当時の丸善は京都市内の別のところにあり、一旦閉店して、最近一番の繁華街、四条河原町のビルに新規オープンした。京都に紅葉狩に行ったついでに立ち寄り、当然のように設置されている檸檬コーナーで「丸善150周年記念 限定復刻カバー版」を買ってきて、丸善の紙ブックカバーで読んだ。
さて、これが時間がかかってしまった。梶井基次郎の描く憂鬱や虚しさ、絶望感や表現の妙に、読みながら、自分の周りの空間をいつのまにか囲まれて出られなくなったような感覚に襲われた。
数ページから50ページくらいまでの短編が20、収録されている。どれにも病気、貧乏といった暗さがつきまとう感じではある。心象風景とその小説化にちょっと苦しんでいるようでもある。そのなかで「檸檬」はやはり巻中の白眉。
見すぼらしいもの、壊れかけているものを描写したかと思えば、花火やびいどろなんかを並べてみせる。周囲の妙に暗い店でレモンイエローの檸檬(文中ではレモンエロウ)を買う。ギャップと色彩を自在に描き、スピード感すら感じさせる。
本の色彩で城壁を築き、レモンで仕上げをする。たわいないこのいたずらが、胸をスカッとさせる。決して複雑な感情ではないメッセージ。そこがいい。
他の短編は、パッと目立つものは少ないが、たまに煌めく表現が出てきてハッとさせる。
ツクツクボウシの鳴き声を「スットコチーヨ」と表してどこかなるほどと腑に落ちたり、「ササササと日が翳る」なんてさりげなく上手いなと唸らせる。
「冬の日」という篇では
「街のアスファルトは鉛筆で光らせたように凍てはじめた。」というのに一瞬で感じ入った。
また最高傑作という人もいるとかの「冬の蝿」の夜の山道を歩いていて車と行き交うシーンでは
「さっと流れてくる光のなかへ道の上の小石が歯のような影を立てた。」
「自動車が走っているというより、ヘッドライトをつけた大きな闇が前へ前へ押し寄せてゆくかのように見えるのであった。」
という立て続けの文章に惹きつけられた。
さすが侮れないな、梶井基次郎、なんて思っていたら「愛撫」では一転可愛らしさをみせる。
猫を愛するあまり、猫の耳というのを子供のときから「一度『切符切り』でパチンとやってみたくて堪らなかった」という主人公はついに猫耳を噛んでしまう。(多少グロではあるが虐待ものではありません^_^)
いかつい顔と荒かったという素行に似合わないから余計クスリとなる。
1901年に生まれた梶井基次郎は川端康成らと同世代。文壇は自然主義、白樺派、新感覚派の芽吹きと飽和状態のような感じで、同人誌に発表した「檸檬」も黙殺されたという。
でも、特徴あるものは自然残る。今回は表現を追うだけで、物語を味わうとこまで行かなかったな、と思いながら今書いているが、何度も読み直す一冊になるだろう。
ちなみに「檸檬」主人公が檸檬を買った実在の果物屋さんは最近まで店を続けていたとか。買い物してみたかった気もする。




読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
この書評へのコメント
- Jun Shino2019-12-07 13:47
oldmanさんこんにちは。おおー、出版社さんってけっこう本のTシャツ出してるんですねー。あまり意識したことがなかったです。黒ベースはシブかっこいい。
太宰はどこかがやって欲しいなあ^_^
ちなみに「檸檬」の丸善150周年限定復刻カバーはこんな感じでーす。
https://www.maruzenjunkudo.co.jp/info/20190110-01/attachment/11/クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - michako2019-12-07 17:47
丸善限定復刻カバーって雰囲気違うんですねぇ!
新潮社オンラインで実は太宰のTシャツあるんです。
https://www.shincho-shop.jp/shincho/goods/index.html?ggcd=snc01847&cid=bungeigoods
私はネット以前に三鷹の太宰のサロンで現物を見ているのですが、やっぱり太宰グッズは面白いものがありましたよ。
Tシャツは背中側もネチネチ書いてあり太宰っぽいです(笑)。
あ、レモンエロウもここにありますよ。
カヂイの場合は背中側がとてもキュート。
そういえば川端康成グッズってないですね…なんかあったでしょうか??
oldmanさん
そういえば大崎で黒いTシャツ着てらっしゃいましたね!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Jun Shino2019-12-07 22:40
ホントにレモンエロウって名前だとは予想外でした^_^
背中側いいですね。
文庫スタンプは私的にNGかなあ。でもねちっと太宰らしく書いてあるのはいいですね。らしくって。
こんなんは見つけましたが・・柄が見えないー。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:350
- ISBN:9784101096018
- 発売日:2003年10月01日
- 価格:420円
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