島での初日の夕食後、どこからか流れてきたのは、十人それぞれの罪状を読み上げる声だった。
そして、まるで断罪のように、一人、一人、姿の見えない殺人者に殺されていく。
「十人の小さな兵隊さん」というわらべ歌通りの殺され方、ダイニングテーブルの上に置かれた十人の兵隊さん人形(一つ、ふたつ、と減っていく)という道具立てなど、ぞくぞくする雰囲気をもりあげる。
殺人者はどこにいるのか。いいや、島には、招かれた10人以外、人の気配はないのだ。
そうだとするなら、十人の中に、犯人が混ざっているということか。
さて、犯人は誰なのか。
非情にも着々と登場人物が減ってくるので、最後には犯人が残るはずなのだ。
本当に?
この暗く、押しつぶされるような雰囲気。
緊迫感、疑心暗鬼。
だれも信用できない孤独感のなかで、それぞれがそれぞれらしいやり方で自分自身の過去と向かいあうのだ。罪悪感、後悔、開き直り、言い訳……小出しの心模様が、現実に進行している殺人事件と混ざり合って、雰囲気を盛り上げる。
赤川次郎さんの解説の「これほど人が次々に死んで行くのに、少しも残酷さや陰惨な印象を与えない」に頷いている。
むごい物語を読んだはずなのに、読後のすっきりしたあと味は、他のクリスティーの作品にも言えて、だから、こんなミステリをもっと読みたいと思うのだ。
いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
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この書評へのコメント
- ef2021-04-05 03:13
これはクリスティの傑作ですよね。
ぱせりさんが本作をレビューしてくれて嬉しい限り!
私はクリスティ作品の三本の指に入る名作だと思っています(他の二つは『アクロイド』と『ABC』だと思っている……次点『オリエント急行』)。
私も何度も読み直している作品ですが、全然飽きない。ミステリだというのにこれだけ再読に耐えられる作品というのも凄いことだと思います(毎回、分かっていながら唖然とさせられちゃうんですよね~)。
クリスティ一流の叙述の上手さがあると思うのですね。
この作品はこれから先も読み継がれていくのでしょうね。
そして……まだこの傑作を読んでいないという方!
なんと羨ましい!!(笑)。
だって、これからまっさらの状態でこの傑作を堪能できるわけでしょ?
この不可能性に頭を悩まし、驚愕するがよい!(既読者の高笑い←ちょっとイヤな奴:笑)。
そして、読み終えたら、しばらく呆けていて……いつかまた再読するのだよ。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ぱせり2021-04-05 17:08
かもめ通信さん、よくぞ聞いてくれました、というほどのことではないのですが、きっかけは、杉みき子さんの「マンドレークの声」https://www.honzuki.jp/book/290956/review/249182/
でした。
杉みき子さんがクリスティーファンだということは以前から聞いていたのだけれど、ここまで!?というほどのクリスティー愛を感じて、大好きな作家さんがそこまでいうなら、わたしも読んでみようかな、と思ったのでした。
ほんとは有名な作品を数点読んでみよう、というくらいの気持ちでしたが、読み始めたら、全点制覇をめざしたくなっちゃったんです。途中で辞めちゃうかもしれないけど、その時はその時で、楽しみながらぽつぽつ読んでいこうと思います♪クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:早川書房
- ページ数:387
- ISBN:9784151310805
- 発売日:2010年11月10日
- 価格:798円
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