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星落秋風五丈原
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望まぬ妊娠を描いた シヴォーン・ダウド デビュー作
 『怪物はささやく』が広く世に出て映画にもなったため、ファンタジー作家の印象が強いが、著者は『ロンドン・アイの謎』『グッゲンハイムの謎』などのミステリ、少女の彷徨を描いた『サラスの旅』など、いわゆる地に足の着いた作品も残している。尚、本編の舞台はアイルランドだが、『サラスの旅』においても、ヒロイン・サラスは母を探してその故郷・アイルランドに向かう。シヴォーン・ダウドは、生まれこそロンドンだがアイルランド系だ。

 アイルランドはカソリックが主流であり、プロテスタントは“移民”である。過去にはかなり激しい紛争もあった。カソリック的価値観では未婚での妊娠は大罪とされ、本人のみならず、家族の破滅も意味した。そのため強制的に妊娠した女性たちを「母と子の家」といった修道院が経営している、いわゆる強制収容所に送り込み、出産したら子は養子に出される仕組みが作られていた。

 であるから、本編のヒロイン・シェルの妊娠は、本人以上に家族にとって大問題だった。

 1984年春。アイルランドの小さな村で、15歳の少女シェルは孤独な毎日を送っていた。母親を病気で亡くして以来、寄付を募っては小金を抜き取って酒を買う父と、反抗的な弟、幼い妹の世話に明け暮れていた。気がまぎれるのは、幼なじみの少年デクランや親友のブライディと、くだらない話をしたりこっそり煙草を吸ったりしているときくらい。ところが、デクランにキスをされたことがきっかけで、深い関係になってしまう。やがて彼女は自分が妊娠していることに気づく。

 父親が、亡き母のドレスを着たシェルを、妻と見間違うなど、際どいシーンがある。家族だけでは限界があり、社会のセーフティネットが介入すべきなのに、積極的に一家を助けようとするローズ神父は、むしろ遠ざけられる。ダウドは、母親の死とそれが子供たちの成長をいかに阻害したかに着目して描いている。同性の年長者が家庭内にいないため、シェルはブラジャーの着用、セックス、避妊など、同年代の人々が当然のように知っているべき事について、結果的に驚くほど無知である。そして無知である結果を、自分ひとりで背負う事になる。表紙絵で、海辺を歩く彼女は、どうしようもなく孤独だ。果たしてそれで良いのだろうか?と著者は問うている。

 実際の事件をもとに描かれている。カーネギー賞、ガーディアン賞、ドイツ児童文学賞など数々の賞にノミネートされ、ブランフォード・ボウズ賞とアイリーシュ・ディロン賞受賞。

シヴォーン・ダウド原案
怪物はささやく
シヴォーン・ダウド作品
十三番目の子
サラスの旅
グッゲンハイムの謎
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2306 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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