東京は広い。例えば山手線なら29駅あるわけだが、各駅がその駅の風景を持っている。そして、多分多くの人が、「この駅に行ったらここでお昼を食べよう」と決めているような店があると思う。
このエッセー集は平松洋子さんが東京の町をぶらぶらして、そこで出会った食について書いているものだ。2009年に初版が発行されているので、平成も20年くらい経ってから書かれているのだが、なんだか全体から昭和の香りが漂っている。それがどうしてだろうと考えたのだが、冒頭で書いたような、ここに行ったらこれ、的な懐かしさがあるからのような気がする。
個人的にも、懐かしい店が数多く登場している。特に、タイトル作の舞台でもあり、繰り返し取り上げられている神保町は、そこから徒歩圏で働いた年数が10年くらいあり、出てくる店全部行ったことがあった。カレーの名店カーマで野菜カレーを注文して主人から嫌味を言われるなんていうのも、「あるある」話だ(自分ではそんなリスクを侵したいとは思わないが)。
おそらく、取り上げられているほかの店も、そういう町の風景に溶け込んだところなのだろう。いつかそこに行ったときに、あたかも常連であるかのように、そののれんをくぐってみたい。そう思わせる本だ。
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