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三太郎さん
三太郎
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津村記久子さんの最初の長編小説を読んだ。予想外にエネルギッシュな小説だった。
津村記久子さんの作品はこれまでに、「ポトスライムの舟」「この世にたやすい仕事はない」を読んでいるが、本書は彼女のデビュー作だという。そのためかこれまで読んだ2作と比べて雰囲気が少し違う。主人公も卒業間近の京都市内の文系学科の大学生と若いし、いろんな話をギュッと詰め込んだ感じだ。おまけに会話はすべて関西弁だ。(僕自身も今は関西にいるので多少は慣れましたが。)

主人公はすでに地方の公務員試験に合格し、後は卒業するだけの大学4年生の女性だ(関西では4回生というのかな)。主人公は、誰にも明かしてはいないが、子供の頃に児童誘拐のニュースを見て、虐待されている児童を救いたいと思い公務員を目指していた。

主人公はある偶然から教室で3回生のイノギさんに出会い、彼女に講義のノートのコピーをお願いした。そのコピーを受け取ってから二人で飲みに行き、主人公は酔いつぶれてイノギさんの二間のアパートに泊めてもらい、それから二人は親しくなった。

小説の半ばまでは主人公の大学でのゼミの友人たち、本人のバイト先の先輩や後輩、彼女自身の性格や好みの描写に費やされる。彼女は身長175cmあり、いで立ちはあまりフェミニンではない。小学3年生の時、教室で男子と取っ組み合いの喧嘩をして男子二名に袋叩きにされ、乳歯を折ったことを忘れない。最近、痴漢を回し蹴りで撃退したことがある。お酒は弱くてすぐ寝てしまう。時々愚痴を聞かされる男友達はいるが恋人はいない。好きだったバイト先の先輩に恋人がいることを後輩が教えてくれて、彼女はがっくりする。

因みに主人公のバイト先は日本酒の工場で、紙パックの製造ラインでの検品が彼女の仕事だった。イノギさんの方はファッションビルの清掃業務をしていた。

年明けに主人公は4年近く働いたバイト先を退職し、職場で送迎会が開かれた。2ヶ月間一緒に働いた後輩の男子学生は酔いつぶれてしまい、仕方なく自分のアパートに連れて行くと部屋の前でイノギさんが待っていた。三人で部屋に入ると後輩の男子は直ぐに寝てしまった。そこに同期の男友達から電話がかかってきた。男の彼女がリストカットしたから来て見ろというのだ。しかたなく主人公は深夜にイノギさんを連れてタクシーで彼のアパートに行くが部屋には入れない。どの窓も明かりがなく静まり返っていた。

それから卒業までの間にも多くの事件が起きる。一年前に自殺した親しかった同期の男子の部屋を訪れて形見分けを貰ったり、その部屋の下の階に虐待され放置された児童がいて、その子を救出したり、あの晩に電話してきた男友達とリストカットした女子との結婚式に出席したり、イノギさんから中学生の頃の自らが被害者となった凶悪な性犯罪の話を聞いたり、イノギさんとその晩裸で抱き合ったり・・・

その後イノギさんは大学を中退して故郷へ帰った。最後の場面では主人公は彼女に会いに、あるものを握りしめて、彼女の故郷を訪ねるのだった。


これまで読んだ津村さんの2作品に比べて全体にエネルギッシュで、登場人物の姿が浮かび上がってくるような印象です。沢山の話題をこれでもか、というように詰め込んでいますが、テンポよく読めました。京都の大学の学生生活が感じられてそれも楽しかったですね。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:825 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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