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ゆうちゃん
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インテリな風来坊イシュメールが乗った捕鯨船ピークォド号のエイハブ船長は、出航後、真意を明かす。彼の目的はひとつ、自分の足を噛み千切った白鯨を狩ることだった。冷静な一等航海士を除き船内はこれに熱狂する

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

モームの世界の十大小説の中で唯一未読だった本書を約四十年ぶりに手にしてみた。

語り手はイシュメールと言うインテリな風来坊で、商船勤務の経験がある。捕鯨船に乗ってみたいと、アメリカ捕鯨発祥の地ナンタケット島に渡る。この途中で南海の酋長の息子で銛打ちのクィークェグと知り合う。彼ら二人組が乗ったのがピークォド号で船長はエイハブである。出航前にイシュメールは、捕鯨者の間で評判の良いマップル牧師の説教を聞く。題材はもちろん、聖書の中で鯨が登場するヨナ書である。
3年分の食糧などを積み、ピークォド号はクリスマスにナンタケットを出港する。イシュメールは出航前についにエイハブ船長に会うことは叶わず、彼がイシュメールの前に姿を見せたのは出航後、数日してからだった。少しして、エイハブ船長は、甲板に全乗員を集めた。沈着冷静な一等航海士のスターバック、無頓着な二等航海士のスタブ、ぼんくらの三等航海士のフラスク、それぞれの航海士には銛打ちが付く。スターバックには一級の腕前のクィークェグ、スタブにはアメリカ先住民のタシュテゴ、フラスクには黒人のタグーである。エイハブ船長は、そこで全員に航海の真意を明かす。それは鯨捕りの間でも獰猛で悪魔のように恐れられているモービィ・ディックと仇名される白鯨を狩ることだった。エイハブ船長は、かつて日本沖でこの鯨と戦い片足を食いちぎられた。モービィ・ディックを最初に見つけたものは、16ドル金貨を与える、とそれを帆柱に打ち付けた。甲板は熱狂し、出航の目的を等閑しているというスターバックの声はかき消された。大洋の中で白鯨一匹を見つけるのは、餌場に定期的に現れる彼等の習性を頼りにすれば、困難ではあるが不可能ではないと著者は言っている。数年来モービィ・ディックに関しては、赤道時期と呼ばれる周期的な時期に獣帯中の一区域に滞留しているのが見られるらしい。そしてピークォド号はこの出現時期に1年の余裕をもって出航している。ピークォド号は大西洋を南下した。その間、イシュメールは初めて鯨狩りを経験し、それが命がけの半ば無謀な行為と漸く理解する。ピークォド号は向きを東に変え、喜望峰近辺では、僚船のアルバトロス号、タウン・ホウ号と遭遇したところで上巻が終わる。

前回読んだのは、大学1年の時だったと思う。その時の感想は、これが世界の十大小説か?と言うものだった。一章がそれほど長いわけではないが、宿に着くのに一章、亭主と部屋を交渉するのに一章、食事をするのに一章、着替えるのに一章、そのたびにイシュメールのおしゃべりが続くのはたまったものではないと感じた。決定打が講釈である。捕鯨船の船員の構成は良いとして、冒頭の語源や文献一覧、途中に挟まる捕鯨師への世間の取り扱い方の不当性、船員の食事の取り方、鯨類の分類、鯨の習性などなど。
だが今回再読してみてとても面白く感じた。冗長と言うのは、冒頭の語源や文献一覧、第三十二章の「鯨学」くらいである。細かい描写も臨場感を増す効果を感じるし、他の講釈類は小説を読むうえで必要な情報を適切な場所に入れている、と感じた。もちろんこのようなことは、いかにも説明的な感じではなく、登場人物の口から自然に言わせるのが小説技法であり、本書のような講釈の形式は半ば著者の開き直りともいえる。だが、イシュメールの本書の語り口ならそれでも良いかと思った。ここ数年、昔の本の再読を進めているが、印象が180度好転したいくつかの小説のうちのひとつになった。時折、人様の書評に「白鯨をつまらない小説」と決めつけたようなコメントを書き込んでしまったが、ここに謹んでお詫びして撤回したい。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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