休蔵さん
レビュアー:
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庭園を観察する際の新たな視点を提供してくれる庭園史の概説書。はじめて触れる概念に目からウロコだった。
日本庭園の歴史について取り上げた本では、その様式を基軸に論を組み立てるあり方が主流である。
たとえば、鑑賞式庭園、回遊式庭園など。
本書はそれを真っ向から覆し、異なる視点を与えてくれる。
そのことだけでも読む価値があるというものだが、その視点は庭園のなんたるかを理解するうえで非常に重要なもののように思われた。
本書は庭園を大きく4つに区分する。
「大庭」と「坪」、「屋戸」、「島」である。
大庭(おおば)は寺社の境内や住まいの主要な建築物の正面に広がる平坦な庭を指すという。
多くの人が集まって行事を行う土地が大庭とのことで、催しが行われていないと空き地にしか思えないような空間だそうだ。
坪(つぼ)は建て込んだ住まいに風を通し、太陽の光を導き入れる庭のこと。
四方を個別の建物と渡り廊下で囲われた「ロ」の字区画であるという特徴を有し、その点でいわゆる町屋の坪庭と同義にはならないとのこと。
屋戸(やど)は建物の周りに漠然と生じた余地で、意識的なものとは限らない。
外部から住まいに入るためには必ずといっていいほど利用されるもので、特徴はさまざま。
住まいの間ともいえる空間で、生活に厚みや自由度を与える上で必要不可欠なものという。
島(しま)は築山や池を築いて樹木を植えた庭のことで、一般的にイメージされる庭園とイコールになるそうだ。
この4つの区分を軸として、京都における庭園史をまとめていく。
この4つの区分の庭は、それぞれの立地に見合った役割を有し、日常生活のなかの実用に合わせて使い分けられていたそうだ。
そして、時代ごとに重視される空間は変遷する。
平安時代の貴族たちにとっては、庭は「大庭」→「坪」→「屋戸」→「島」の順で重要なものとみられていたそうだ。
つまり、現代の私たちが「島」のみを庭として認識し、鑑賞する姿勢は、現代という時代性を反映したもの。
では、「島」に注目が集まるようになったのはいつ頃か?
それは室町時代という。
夢想疎石が貞和2年(1346)に「天龍寺十境」の選定を行ったことがきっかけという。
寺院境内とその周辺の景色や施設を対象として、10か所を目安とした見どころを選定し、誌に詠むことが盛んに行われたとのこと。
このような取り組みが他の禅宗寺院でも実施されることに。
そのおかげで寺院庭園に見どころが付与され、それに対峙する方向軸が明確化されると、来訪者たちの間で一定の見方が共有されることになったというのだ。
さらに回遊という新たな使い方が導入されることに。
島の価値観はいよいよ高まることになったという。
その延長上で現代の庭に対する価値観が醸造されたようだ。
庭園は時代的背景により大きく変化してきた。
それは所有者の考えを反映してのこと。
そして、現代。
文化財指定による庭園も保護の対象となっている。
そこに関わるスタンスには所有者と庭師に加え、文化財担当の行政も加わり、さらに外部の有識者の意見が述べられることも。
本書の著者は行政の担当者で、有識者の意見のあり方と実務との乖離に悩まされることが多かったようだ。
庭園を維持し、後世に伝えることを前提としつつも、所有者の意向を無視した有識者の見解に何の意味があるのだろう。
庭園は所有者の気持ちを反映し変遷してきた。
有識者の高みからの意見で冷凍保存するために今まで伝えられてきたわけではない。
たとえば、鑑賞式庭園、回遊式庭園など。
本書はそれを真っ向から覆し、異なる視点を与えてくれる。
そのことだけでも読む価値があるというものだが、その視点は庭園のなんたるかを理解するうえで非常に重要なもののように思われた。
本書は庭園を大きく4つに区分する。
「大庭」と「坪」、「屋戸」、「島」である。
大庭(おおば)は寺社の境内や住まいの主要な建築物の正面に広がる平坦な庭を指すという。
多くの人が集まって行事を行う土地が大庭とのことで、催しが行われていないと空き地にしか思えないような空間だそうだ。
坪(つぼ)は建て込んだ住まいに風を通し、太陽の光を導き入れる庭のこと。
四方を個別の建物と渡り廊下で囲われた「ロ」の字区画であるという特徴を有し、その点でいわゆる町屋の坪庭と同義にはならないとのこと。
屋戸(やど)は建物の周りに漠然と生じた余地で、意識的なものとは限らない。
外部から住まいに入るためには必ずといっていいほど利用されるもので、特徴はさまざま。
住まいの間ともいえる空間で、生活に厚みや自由度を与える上で必要不可欠なものという。
島(しま)は築山や池を築いて樹木を植えた庭のことで、一般的にイメージされる庭園とイコールになるそうだ。
この4つの区分を軸として、京都における庭園史をまとめていく。
この4つの区分の庭は、それぞれの立地に見合った役割を有し、日常生活のなかの実用に合わせて使い分けられていたそうだ。
そして、時代ごとに重視される空間は変遷する。
平安時代の貴族たちにとっては、庭は「大庭」→「坪」→「屋戸」→「島」の順で重要なものとみられていたそうだ。
つまり、現代の私たちが「島」のみを庭として認識し、鑑賞する姿勢は、現代という時代性を反映したもの。
では、「島」に注目が集まるようになったのはいつ頃か?
それは室町時代という。
夢想疎石が貞和2年(1346)に「天龍寺十境」の選定を行ったことがきっかけという。
寺院境内とその周辺の景色や施設を対象として、10か所を目安とした見どころを選定し、誌に詠むことが盛んに行われたとのこと。
このような取り組みが他の禅宗寺院でも実施されることに。
そのおかげで寺院庭園に見どころが付与され、それに対峙する方向軸が明確化されると、来訪者たちの間で一定の見方が共有されることになったというのだ。
さらに回遊という新たな使い方が導入されることに。
島の価値観はいよいよ高まることになったという。
その延長上で現代の庭に対する価値観が醸造されたようだ。
庭園は時代的背景により大きく変化してきた。
それは所有者の考えを反映してのこと。
そして、現代。
文化財指定による庭園も保護の対象となっている。
そこに関わるスタンスには所有者と庭師に加え、文化財担当の行政も加わり、さらに外部の有識者の意見が述べられることも。
本書の著者は行政の担当者で、有識者の意見のあり方と実務との乖離に悩まされることが多かったようだ。
庭園を維持し、後世に伝えることを前提としつつも、所有者の意向を無視した有識者の見解に何の意味があるのだろう。
庭園は所有者の気持ちを反映し変遷してきた。
有識者の高みからの意見で冷凍保存するために今まで伝えられてきたわけではない。
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ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
書評一覧を取得中。。。
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