三毛ネコさん
レビュアー:
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ショートショートの創始者、星新一の伝記です。面白い読み物になっています。
星新一。説明は要らないだろう。ショートショートを確立した人である。
新一は星製薬の創業者の息子である。父親の星一は、20歳で渡米し、コロンビア大学を卒業している。アメリカでは野口英世と出会い、親友になっていた。
その後、星製薬を設立する。経営はうまくいき、世界的な製薬会社になっていく。経営を多角化し、化粧品や食料品の店も出した。星製薬商業学校(後の星薬科大学)という学校まで創立していた。
そんな父を持った新一は、国語は得意だったが、意外なことに作文の評価は低かった。文章は短いものばかりで、感情表現はほとんど入れなかったという。思えば、この頃から後のショートショートの名手としての片鱗を見せていたのかもしれない。
そして新一が中学生の時、太平洋戦争が始まる。そんな中、理系科目が得意だった新一は東京高等学校に進学する。しかし、戦争の影響で授業は減らされる。代わりに軍事訓練や勤労動員が行われたのだ。徴兵検査では合格になるが、理系だったため徴兵猶予となった。
そして新一は東大農学部に進学する。大学ではペニシリンについて研究していた。卒業後は役人になる予定だったのだが、星一の意向で星製薬の営業部長になる。しかし、その後星一は亡くなり、新一は会社整理を始めることになる。
私は星新一に経営の才覚がなく、星製薬を潰してしまったのだと思っていたのだが、星一が生きていた頃から星製薬にはかなりの借金があり、倒産するほかなかったということのようだ。
新一は星製薬の社長だったが、その後副社長に降格され、する仕事がほとんどなかった。そのころから小説を書き始めた。同人誌「宇宙塵」に掲載した「セキストラ」が評判になる。雑誌「宝石」にも転載され、江戸川乱歩が手放しで褒めていたようだ。
その後の作品「ボッコちゃん」では、すでに星新一特有の文体、リズムができ上がっていた。それでも、最初のころは作品1つ書いて80円(ラーメン2杯分)にしかならなかった。だが、その後直木賞候補にもなり、ショートショートの先駆者となっていくわけだ。
印象に残ったのが、星新一の「健全な常識があってこそ常識の枠を取り外した意表を突くアイデアが生まれる」という言葉である。翻訳でも同じことが言えると思う。まず「カタ」をしっかりと身につけた後で、初めて「型破り」な仕事ができるようになると思うのである。基本的な「カタ」を身につけずに自由にやろうとしても「形無し」で終わるだけである。
結婚もして、作家として順調に歩む新一。スランプもあったようだが、そこを乗り越えてショートショート1001編という偉業を成し遂げる。そんな星新一の人生を読みやすい筆致で描ききったこの伝記。5つも文学賞を取ったのもうなずけた。面白い読書であった。
新一は星製薬の創業者の息子である。父親の星一は、20歳で渡米し、コロンビア大学を卒業している。アメリカでは野口英世と出会い、親友になっていた。
その後、星製薬を設立する。経営はうまくいき、世界的な製薬会社になっていく。経営を多角化し、化粧品や食料品の店も出した。星製薬商業学校(後の星薬科大学)という学校まで創立していた。
そんな父を持った新一は、国語は得意だったが、意外なことに作文の評価は低かった。文章は短いものばかりで、感情表現はほとんど入れなかったという。思えば、この頃から後のショートショートの名手としての片鱗を見せていたのかもしれない。
そして新一が中学生の時、太平洋戦争が始まる。そんな中、理系科目が得意だった新一は東京高等学校に進学する。しかし、戦争の影響で授業は減らされる。代わりに軍事訓練や勤労動員が行われたのだ。徴兵検査では合格になるが、理系だったため徴兵猶予となった。
そして新一は東大農学部に進学する。大学ではペニシリンについて研究していた。卒業後は役人になる予定だったのだが、星一の意向で星製薬の営業部長になる。しかし、その後星一は亡くなり、新一は会社整理を始めることになる。
私は星新一に経営の才覚がなく、星製薬を潰してしまったのだと思っていたのだが、星一が生きていた頃から星製薬にはかなりの借金があり、倒産するほかなかったということのようだ。
新一は星製薬の社長だったが、その後副社長に降格され、する仕事がほとんどなかった。そのころから小説を書き始めた。同人誌「宇宙塵」に掲載した「セキストラ」が評判になる。雑誌「宝石」にも転載され、江戸川乱歩が手放しで褒めていたようだ。
その後の作品「ボッコちゃん」では、すでに星新一特有の文体、リズムができ上がっていた。それでも、最初のころは作品1つ書いて80円(ラーメン2杯分)にしかならなかった。だが、その後直木賞候補にもなり、ショートショートの先駆者となっていくわけだ。
印象に残ったのが、星新一の「健全な常識があってこそ常識の枠を取り外した意表を突くアイデアが生まれる」という言葉である。翻訳でも同じことが言えると思う。まず「カタ」をしっかりと身につけた後で、初めて「型破り」な仕事ができるようになると思うのである。基本的な「カタ」を身につけずに自由にやろうとしても「形無し」で終わるだけである。
結婚もして、作家として順調に歩む新一。スランプもあったようだが、そこを乗り越えてショートショート1001編という偉業を成し遂げる。そんな星新一の人生を読みやすい筆致で描ききったこの伝記。5つも文学賞を取ったのもうなずけた。面白い読書であった。
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フリーランスの産業翻訳者です。翻訳歴12年。趣味と実益(翻訳に必要な日本語の表現力を磨くため)を兼ねてレビューを書いています。サッカーファンです。
書評、500冊になりました。これからも少しずつ投稿していきたいと思います。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:571
- ISBN:9784104598021
- 発売日:2007年03月01日
- 価格:2415円
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