書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

三毛ネコ
レビュアー:
辞書編集の大変さを描いた小説です。辞書が大変な労力の積み重ねでできていることが分かりました。
荒木公平は編集者である。大手出版社の玄武書房で辞書の編集を担当している。もともと言葉に興味があり、中学の入学祝いに叔父から岩波国語辞典をもらってから辞書が大好きになった。引いていくうちに、辞書が万能ではないと知ったが、それでますます愛着が湧いた。荒木にとっては辞書が全てだった。

その荒木も定年が近く、自分の後を継いでくれる後輩を探していた。その人物は第一営業部にいる、馬締(まじめ)光也だ。入社3年目の27歳である。荒木から見て、辞書編集の才能はありそうだが、やることがトンチンカンで営業部では評価されていない。何しろ、荒木の担当している辞書「大渡海(だいとかい)」を手伝ってほしいと言われてクリスタルキングの「大都会」を歌い出すくらいである。そんな馬締も人並みに恋をする。相手は馬締と同じ下宿に引っ越してきた林香具矢(かぐや)と言う女性である。馬締の歓迎会で荒木と「大渡海」の監修者、松本先生はこう言う。「辞書は、言葉の海を渡る船だ。海を渡るにふさわしい舟を編む」という思いを込めて「大渡海」と名付けたと。

「大渡海」の見出し語は約23万語。ことわざや専門用語、固有名詞も収録し、百科事典としても活用できるようにする予定である。

馬締が辞書編集者として働き出したころ、同僚の西岡が、「大渡海」の作成を中止するという話を耳にする。困惑した2人は、各分野の先生に辞書原稿を書いてもらいたいと頼むことにする。その後、定年になった荒木が会社の役員と話し合い、「玄武学習国語辞典」の改訂を行えば「大渡海」の企画を続行するという言質を取った。

しかし近々、西岡が別の部署に異動になる予定だ。後のメンバーは全員正社員ではない。つまり、馬締が1人でほとんどの仕事をこなさなければならないということである。果たして、馬締は辞書を完成させることができるのか?

辞書を作る大変さがよく分かる本である。まず「用例採集カード」を作り、それをもとに収録する見出し語を選定する。次に「執筆要項」を作る。辞書は50人以上が原稿を書いて完成するので、具体例を挙げて盛り込む情報、何文字で書くか、文体などを示す。手間だけでなく、金もかかる。5回も校正したりするからだ。

この作品で辞書作りに関わる人には変人が多い。しかしフィクションとはいえ、辞書作りをする人たちの情熱と真摯な姿勢に心を打たれる。同じ言葉を扱う仕事をしている者として、もう少し慎重に仕事をしなければと思わされた読書だった。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
三毛ネコ
三毛ネコ さん本が好き!1級(書評数:875 件)

フリーランスの産業翻訳者です。翻訳歴12年。趣味と実益(翻訳に必要な日本語の表現力を磨くため)を兼ねてレビューを書いています。サッカーファンです。

書評、500冊になりました。これからも少しずつ投稿していきたいと思います。

参考になる:24票
共感した:6票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ