四次元の王者さん
レビュアー:
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死んだ海のほとりに最後の火星人たちが住んでいた頃、地球人がやってきた。
やがて古代文明の遺跡と火星人の精霊がさまよう地に、入植がはじまり……。
本書は雑誌に掲載された作品群をつなぎ合わせたものだが、一九九七年、八十歳近かったブラッドベリが原作を加筆修正したのがこの新版。
四十年前の原作では、火星探検隊の最初のロケットが地球を出発したのが一九九九年だったが、新版では二○三○年一月に修正された。
各章の見出しは「二〇●●年●月」というふうに西暦年月で示される。
ニ十歳前後で僕も最初の版を読んだが、著者と同年代のアーサー・クラークの「二〇〇一年宇宙の旅」、アイザック・アシモフの「銀河帝国の興亡」に比べ、難解でわかりにくいというイメージが残っている。
ロケット、火星の死んだ海、そして火星人たちの描写が具体性に欠け、雑だと今でも思う。
ただ、滅亡しつつある存在として描かれる火星人は、クラークの作品に登場する異星人とは異質。
森羅万象、すべての生き物の霊の象徴、神に近い位置づけのように感じた。
以下、新版を読んでイメージに残った場面。
オハイオから発射された火星探検隊が乗ったロケットは、最初の打ち上げから三度続けて消息を絶つ。
火星人が住んでいた多くの都市は何千年か前に滅んでいて、生き延びている少数の火星人たちが地球人に対して使える武器はテレパシー、催眠術、そして記憶創造力。
探検隊のメンバーは、生き残っていた火星人たちによって殺されていた。
二○三二年六月、四度目の探検隊員を乗せたロケットが火星に到着したとき、火星人はほとんど死に絶えていた。
原因は地球人がもたらした 水疱瘡(みずぼうそう)だった。
短編をつなぎ合わせた本書で、あえて主人公を選ぶとしたらこの四度目の探検隊にいた医者兼地理学者の ハザウェイになるだろう。
ワイルダー隊長が率いる二十人の探検隊が火星に到着し、探査をするうち、メンバーのなかのスペンダーという考古学者が反旗を翻す。
彼は 「ばかげた最終戦争を起こさず、敢えて種族の死を選んだ」火星人に感情移入(?)する。
潔癖な火星人に比べ 「絶えず争いを起こし、原爆を開発し、火星に原子力研究所や原爆貯蔵庫まで作ろうとしている」地球人。
火星人の怨念が乗り移ったかのようなスペンダーの憎悪は仲間の地球人に向けられ、とうとうメンバーの何人かを殺害してしまう。
ワイルダー隊長はスペンダーに理解を示しながらも、彼を殺さざるを得なかった。
原子力については、同い年のアシモフが初期の作品で効率的な夢のパワーユニットとして描いているのと対照的に、ブラッドベリは人類を滅ぼしかねない脅威と見なしている。
この四度目の探検隊で、火星の奥地を探査していた ハザウェイは火星に取り残され、この章は終わるが、二十五年後、彼は物語に再び登場するのだ。
四度目の探検隊が来て以降、火星には地球からの移民が押し寄せ、やがて彼らが作った社会に規律をもたらすべく宗教家がやってくる。
そして徐々に、社会に思想統制の波が押し寄せる。
「二○三六年四月 第二のアッシャー邸」では、地球で禁じられ、焚書とされた書物を奉じる男、スタンダールが描かれる。
自由を求めて新天地、火星にやって来たスタンダールは、彼の身辺を探るため地球から派遣された「道徳風潮局」の調査官を殺す。
が、殺されたのは本人なのか、ロボットなのか?
ここで「ロボットと人間」というテーマが加わる。
二○三六年一一月、四度目の探検隊メンバーのうち、自ら火星に残ってハンバーガーショップ事業で一旗揚げようとしていたサムが描かれる。
彼は、これから押し寄せるはずの地球からの移民を当て込んだのだ。
そんな彼の周囲に、火星人の霊が出没し、火星の半分に相当する土地をサムに譲ると言う。
どうして?
しかしその時、彼の眼に映ったのは戦争による炎に包まれた地球。
火星人の霊は彼をどう見たのだろう。
そして二○五七年四月、多くの地球人が混乱する地球に戻り、閑散とした火星。
そこに第四次探検隊の隊長だったワイルダーが、ロケットで火星にやってくる。
彼が目にしたのは、かつての火星探検の同僚で、ロケットに乗り遅れて火星に取り残されていた ハザウェイと、彼の家族。
妻、娘二人と息子一人だった。
そこには四つの墓があり……。
ここがこの作品のハイライト。
出版年次からして、表現に古めかしさを感じるのはやむを得ない。
またアメリカ人でないと同調できない表現もいくつかある。
しかし、未だに歴史に残るSF小説の名作としてこの作品が残っているのは、宗教にも通じる世界観ゆえなのだろう。
四十年前の原作では、火星探検隊の最初のロケットが地球を出発したのが一九九九年だったが、新版では二○三○年一月に修正された。
各章の見出しは「二〇●●年●月」というふうに西暦年月で示される。
ニ十歳前後で僕も最初の版を読んだが、著者と同年代のアーサー・クラークの「二〇〇一年宇宙の旅」、アイザック・アシモフの「銀河帝国の興亡」に比べ、難解でわかりにくいというイメージが残っている。
ロケット、火星の死んだ海、そして火星人たちの描写が具体性に欠け、雑だと今でも思う。
ただ、滅亡しつつある存在として描かれる火星人は、クラークの作品に登場する異星人とは異質。
森羅万象、すべての生き物の霊の象徴、神に近い位置づけのように感じた。
以下、新版を読んでイメージに残った場面。
オハイオから発射された火星探検隊が乗ったロケットは、最初の打ち上げから三度続けて消息を絶つ。
火星人が住んでいた多くの都市は何千年か前に滅んでいて、生き延びている少数の火星人たちが地球人に対して使える武器はテレパシー、催眠術、そして記憶創造力。
探検隊のメンバーは、生き残っていた火星人たちによって殺されていた。
二○三二年六月、四度目の探検隊員を乗せたロケットが火星に到着したとき、火星人はほとんど死に絶えていた。
原因は地球人がもたらした 水疱瘡(みずぼうそう)だった。
短編をつなぎ合わせた本書で、あえて主人公を選ぶとしたらこの四度目の探検隊にいた医者兼地理学者の ハザウェイになるだろう。
ワイルダー隊長が率いる二十人の探検隊が火星に到着し、探査をするうち、メンバーのなかのスペンダーという考古学者が反旗を翻す。
彼は 「ばかげた最終戦争を起こさず、敢えて種族の死を選んだ」火星人に感情移入(?)する。
潔癖な火星人に比べ 「絶えず争いを起こし、原爆を開発し、火星に原子力研究所や原爆貯蔵庫まで作ろうとしている」地球人。
火星人の怨念が乗り移ったかのようなスペンダーの憎悪は仲間の地球人に向けられ、とうとうメンバーの何人かを殺害してしまう。
ワイルダー隊長はスペンダーに理解を示しながらも、彼を殺さざるを得なかった。
原子力については、同い年のアシモフが初期の作品で効率的な夢のパワーユニットとして描いているのと対照的に、ブラッドベリは人類を滅ぼしかねない脅威と見なしている。
この四度目の探検隊で、火星の奥地を探査していた ハザウェイは火星に取り残され、この章は終わるが、二十五年後、彼は物語に再び登場するのだ。
四度目の探検隊が来て以降、火星には地球からの移民が押し寄せ、やがて彼らが作った社会に規律をもたらすべく宗教家がやってくる。
そして徐々に、社会に思想統制の波が押し寄せる。
「二○三六年四月 第二のアッシャー邸」では、地球で禁じられ、焚書とされた書物を奉じる男、スタンダールが描かれる。
自由を求めて新天地、火星にやって来たスタンダールは、彼の身辺を探るため地球から派遣された「道徳風潮局」の調査官を殺す。
が、殺されたのは本人なのか、ロボットなのか?
ここで「ロボットと人間」というテーマが加わる。
二○三六年一一月、四度目の探検隊メンバーのうち、自ら火星に残ってハンバーガーショップ事業で一旗揚げようとしていたサムが描かれる。
彼は、これから押し寄せるはずの地球からの移民を当て込んだのだ。
そんな彼の周囲に、火星人の霊が出没し、火星の半分に相当する土地をサムに譲ると言う。
どうして?
しかしその時、彼の眼に映ったのは戦争による炎に包まれた地球。
火星人の霊は彼をどう見たのだろう。
そして二○五七年四月、多くの地球人が混乱する地球に戻り、閑散とした火星。
そこに第四次探検隊の隊長だったワイルダーが、ロケットで火星にやってくる。
彼が目にしたのは、かつての火星探検の同僚で、ロケットに乗り遅れて火星に取り残されていた ハザウェイと、彼の家族。
妻、娘二人と息子一人だった。
そこには四つの墓があり……。
ここがこの作品のハイライト。
出版年次からして、表現に古めかしさを感じるのはやむを得ない。
またアメリカ人でないと同調できない表現もいくつかある。
しかし、未だに歴史に残るSF小説の名作としてこの作品が残っているのは、宗教にも通じる世界観ゆえなのだろう。
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仕事、FP活動の合間に本を読んでいます。
できるだけ純文学と経済・社会科学系のものをローテーション組んで読むようにしています(^^;
相場10年、不良債権・不動産10年、資産形成(DC、イデコ)20年と、サラリーマンになりたての頃は思っても見なかったキャリアになってしまいました。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:414
- ISBN:9784150117641
- 発売日:2010年07月10日
- 価格:987円
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