darklyさん
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評判に違わぬ力作。ただホラーとミステリの融合という試みは少しズルい気がしないでもない。
三津田さんの作品は散発的に読んだことがあっても、時系列にあるいはシリーズ物としてはなかったので刀城言耶シリーズと言われるものの第一作目を読んでみようと思い手に取りました。
怪奇幻想作家の刀城言耶は各地の民間伝承に見られる怪異譚の蒐集のため神々櫛村を訪れる。その村は昔から行方不明者が発生、つまり神隠し村と呼ばれ、村の中には憑き物筋の家筋があり、そしてその憑き物をおとす巫女がいる。
昭和の時代、人々の中には古くからの因習や伝統を頑なに信じ守ろうとする者もいれば、それらはすべて過去の迷信であり、「家」に拘るのはナンセンスと考える者もいる。それはある意味権力闘争という側面もある。「家」に拘るのはナンセンスと考える者たちがある企てのために会合を開いた時から、そのメンバーが次々と怪死する。果たしてそれは殺人なのか、自殺なのか、それとも村に祀られるカカシ様の仕業なのか。
ホラーとミステリの融合と言えばどうしてもイメージ的に横溝正史と京極夏彦が頭に浮かびます。ただ、よく考えてみると結構相違点があるようです。横溝作品は事件の舞台やモチーフに古い事件や土地に伝わる因習等が用いられますが、怪奇現象等が実際に起こるわけではなく、結局は人間が起こした殺人事件を探偵が解決するという通常のミステリであると言えます。
妖怪をモチーフとした京極作品は怪奇現象や不思議な出来事が起こりますが、あくまでもそれは主観の問題であると位置づけます。つまりそれを体験した(あるいは見た)人間の心理状態が原因であり、それを昔から妖怪が引き起こす怪異と考えられていたことと絶妙に結びつけることにより独特の世界観を醸し出します。がしかし、それを現実の世界に引き戻す役割を果たす京極堂により結局は普通のミステリとして落ち着きます。
では三津田作品はどうでしょうか。ミステリの部分は本格でありながら、つまり事件は人間が関与した合理的に説明ができるものでありながら、怪異の部分を完全に否定しないものになっています。これは京極作品に置き換えれば登場人物の主観の中には精神状態に原因があるもの以外の原因を否定しないということです。
これはある意味ズルい設定です。後で合理的に説明のつく怪異を元に本格ミステリの骨格を作ってから、迷彩を施すように本当の怪異を散りばめる。読者はその怪異が、登場人物の主観として記述される文章のみによって合理的に説明できることなのかそうでないのか判断しなければなりません。事件の謎を解くために変数がとても多く、ミステリ難易度は途轍もなく高いものになります。
とはいえこの長い物語を破綻させずにまとめ上げる力は半端ではなく、三津田さんが人気作家である理由がよく分かります。このシリーズはコツコツと楽しみながら読んでいこうと思います。
怪奇幻想作家の刀城言耶は各地の民間伝承に見られる怪異譚の蒐集のため神々櫛村を訪れる。その村は昔から行方不明者が発生、つまり神隠し村と呼ばれ、村の中には憑き物筋の家筋があり、そしてその憑き物をおとす巫女がいる。
昭和の時代、人々の中には古くからの因習や伝統を頑なに信じ守ろうとする者もいれば、それらはすべて過去の迷信であり、「家」に拘るのはナンセンスと考える者もいる。それはある意味権力闘争という側面もある。「家」に拘るのはナンセンスと考える者たちがある企てのために会合を開いた時から、そのメンバーが次々と怪死する。果たしてそれは殺人なのか、自殺なのか、それとも村に祀られるカカシ様の仕業なのか。
ホラーとミステリの融合と言えばどうしてもイメージ的に横溝正史と京極夏彦が頭に浮かびます。ただ、よく考えてみると結構相違点があるようです。横溝作品は事件の舞台やモチーフに古い事件や土地に伝わる因習等が用いられますが、怪奇現象等が実際に起こるわけではなく、結局は人間が起こした殺人事件を探偵が解決するという通常のミステリであると言えます。
妖怪をモチーフとした京極作品は怪奇現象や不思議な出来事が起こりますが、あくまでもそれは主観の問題であると位置づけます。つまりそれを体験した(あるいは見た)人間の心理状態が原因であり、それを昔から妖怪が引き起こす怪異と考えられていたことと絶妙に結びつけることにより独特の世界観を醸し出します。がしかし、それを現実の世界に引き戻す役割を果たす京極堂により結局は普通のミステリとして落ち着きます。
では三津田作品はどうでしょうか。ミステリの部分は本格でありながら、つまり事件は人間が関与した合理的に説明ができるものでありながら、怪異の部分を完全に否定しないものになっています。これは京極作品に置き換えれば登場人物の主観の中には精神状態に原因があるもの以外の原因を否定しないということです。
これはある意味ズルい設定です。後で合理的に説明のつく怪異を元に本格ミステリの骨格を作ってから、迷彩を施すように本当の怪異を散りばめる。読者はその怪異が、登場人物の主観として記述される文章のみによって合理的に説明できることなのかそうでないのか判断しなければなりません。事件の謎を解くために変数がとても多く、ミステリ難易度は途轍もなく高いものになります。
とはいえこの長い物語を破綻させずにまとめ上げる力は半端ではなく、三津田さんが人気作家である理由がよく分かります。このシリーズはコツコツと楽しみながら読んでいこうと思います。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:講談社
- ページ数:624
- ISBN:9784062763066
- 発売日:2009年03月13日
- 価格:950円
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