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思っていたのと違った。神学が近いかもだけど、神話学に分類されるみたい。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
神話の力
神話と宗教の研究で有名なキャンベルさんと、アメリカのTVで活躍するモイヤーズさんとの対話録です。神話の力という題名なので、北欧神話とかギリシア神話のあれこれを想像していたのですが、全然違いました。

なぜ神話があるのか、宗教での位置づけや世界の宗教観の違いは何かなど、神学的な対話に多くの時間が割かれています。神話の物語の部分は、たまに例示的に引用される程度で、かなり専門的な宗教対話という感じです。

そのことが、これから読む人に一番お伝えしたかったことでした。誤認防止ですね。わたしは神話の力と聞いて、宗教上の討論を連想できなかったので。もし表紙や題名と中身が違う印象があったら、誰も得しませんしね。でも、欧州の人にはこの題名でしっくりくるのかもしれません。題名は直訳に近いです。日本人のわたしにはうまく伝わらなかったということです。

わたしには神学の知識はありません。ですのでイメージ的に神学論みたいに思ったのですが、ひょっとしたら宗教学なのかもしれません。あいまいですみません。それはさておき、自分なりの発見や意見がありますので紹介します。

著者は、神話の知識がもとになって伝統的な行事が行われていることと、それが人生を豊かに、そして活性化するものだといいます。人生の途中での案内標識の役目もあるといいます。言い換えれば、慣習という社会秩序のもととなる部分が、神話の形をとって伝わっているのだと理解しました。日本のベースは神道であり、子どもの頃からの慣習を思い起こすと、ムラ社会の維持に役立っていそうだなと、納得する部分がありました。

著者はキリスト教徒のアメリカ人ですが、仏教をはじめ他の宗教と比較して考察を深めています。比較神話学の第一人者とのことで、なるほどです。だからキリスト教以外の神の話もどんどん言及しているのですね。

一点、著者と意見が合わない部分がありました。ローマ帝国時代に、なぜキリスト教が他の宗教と共存できずに、異教の寺院を猛烈に破壊したのかと聞かれ、問題は権力だと回答しているところです。キリスト教がヨーロッパに押し付けられてから五百年後に聖杯伝説が生まれたとも言っているので、もともとヨーロッパはキリスト教ではなかったというニュアンスもあります。これらを合わせると、欧州には土着の多神教があったはずで、だからギリシア神話とかがあるのに、権力争いで敗れてキリスト教に変わっていったという意見に読めます。

たしかに、現象的にはそうかもしれません。わたしは、そもそもキリスト教が一神教であり、他の神を認めないことが争いのもとになっていると思うのです。これはイスラム教やユダヤ教でも同じです。単なる権力争いではなく、自分の神以外を認めないから、争いがおこり、それが権力闘争にすり替わったのではと思うのです。著者の意見とは順番が逆ということです。日本は神道で、八百万の神の国です。他の神を受け入れるからこそ、結婚式がキリスト教式で、葬儀が仏教式でも、そこまで違和感はありません。だから宗教的な権力争いは起こりにくいので、著者の視点と合わなく感じました。

キリスト教は、全知全能の神です。これに対してアジアの神は、奥底の知れない自然の力を使えるのが神であり、神そのものがすべての力を持っているのではないと、著者も説明しています。著者は仏教の考えにかなり啓発されたようです。仏教関係の引用が多くありました。

宗教観が、各民族間の常識の違いに現れているような気がして、なかなか興味深かったですね。比較宗教学的に読むのがいい本だと思いましたよ。
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  • 掲載日:2025/11/26
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