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「本が消えるのは、心が死にゆく予兆」「優しさとは、想像力のことだ」 ――効率主義の時代に、夏川草介氏が放つ「読書の正義」

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!3級
  • 君を守ろうとする猫の話
  • by
  • 出版社:小学館
君を守ろうとする猫の話
 喘息を抱える女子中学生の主人公は、通い慣れた図書館から本が消え始めていることに気づく。ある日、その“犯人”と思しき中年紳士を追った彼女は、人間に「強い気持ち」を求める一匹の猫と出会う。猫に導かれ、本棚の奥に現れた光の回廊を抜けると、そこには想像を絶する異世界が広がっていた。

 その世界を支配するのは、無表情な兵士を操る将軍や宰相たちだ。彼らは本を焼き払い、価値ある一冊を石の台に封じ込め、中身のない白紙の本を量産することで、人々の想像力を奪おうとしていた。すべては、欲望が支配する「弱肉強食の世界」を作り上げるためだ。

 主人公は愛する物語を守るため、自身の不安を勇気に変え、国王との最終決戦に挑む。業火に包まれながらも「希望はよみがえる」と信じて突き進む姿は、痛切なほどに胸を打つ。さらに、かつて彼女が愛読した『フレデリック』の野ネズミや『ダルタニアン物語』の銃士たちが窮地を救う展開は、まさに「本の力」が具現化した瞬間であり、読書の醍醐味を鮮やかに描き出している。

 ファンタジーという形式を借りて、夏川草介氏は現代の新自由主義的な風潮、すなわち「心の乏しい効率主義」へ警鐘を鳴らす。同時に自身の読書観を物語に織り込んでいる。その筆致は、著者の代表作『神様のカルテ0』に登場する、がんを宣告された元国語教師の言葉と深く共鳴する。

「ヒトは一生のうちで一個の人生しか生きられない。しかし本は、別の人生があることを教えてくれる」「優しさというのはね、想像力のことですよ」

 この言葉こそが、本作の核心だろう。

 効率や利益が優先される時代だからこそ、私たちは「他者の人生を歩む」という遠回りの尊さを忘れてはならない。本書は、読書が単なる娯楽ではなく、人間が人間であるための「心の盾」であることを再認識させてくれる一冊だ。

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  • 掲載日:2026/04/28
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