著者、冨原眞弓さんが、東京で出会ったシモーヌ・ヴェイユの『神を待ちのぞむ』と、ストックホルムで出会った『ムーミン谷の冬』。
この二冊との出会いは、著者の人生を変えるほどの衝撃的な出来事だった。
人生を変えるほどの本との出会い。私にあるだろうか。大切な数冊の題名が思い浮かぶけれど、それらの本が人生を変えた、とは言えない。そういう強烈な出会いはなかった、と思う。
でも、このエッセイを読んでいるうちに、人生を変えたのは本ではなくて、その本を読んだ人(著者)の行動力だ、と気がついた。
本と劇的な出会いをする。そのとき、その本を新たな景色をみるための扉にしたり、道連れにしたり。そのとき、自分自身が踏み出した一歩が、人生を変えていったのだ、と。
この本は、三部に分かれている。
第一部、ヴェイユを読むことから始まったパリ留学の日々、いくつもの出会いがあった。取り分けて、彫刻家フランとの交友が心に残る。
第二部は、ヴェイユからトーベ・ヤンソンに続く途上の物語のよう。二人のスウェーデン女性との出会いから、日本とスカンジナビアを行き来する日々が始まること、出会った人々のこと。そしてストックホルムで『ムーミン谷の冬』に出会う。
スカンジナビアに生きる女性たち(著者の友人)の生き方が心に残る。
人生を謳歌する彼女たちを支えるのは国。その在り方は、福祉国家という言葉以前に、一人ひとりが伸びやかに自分の人生を生き切るのを国が支え、そういう国を信頼をもって一人ひとりが支えている、という印象。
最三部は、ヤンソンとの出会い、長きにわたる交友。著者の見たまま感じたままのヤンソン象は、私には、わかるようで、ますますわからない。そのわからなさをうれしく受け入れる(わかってしまいたくない、との思いで)
「(これからの人生)やりたいことだけをやると誓う」
この潔い言葉は、パリで彫刻家フランから著者が聞いた言葉であり、後年のヤンソンの言葉に「呼応」する。「ほんとうにたいせつなものがあれば、ほかのものすべてを無視していい。そうすればうまくいく」とヤンソンは言う。
それって、まるまるこの本での著者の生き方みたい。それこそ上記の女性たちの言葉に「呼応」している。
そうした記憶(ミンネ)の欠片がこの本にはたくさん散らされている。全部拾い集めるのも、選んで拾うのも、いい。
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