今をときめく人気作家による、お酒にまつわる人間模様を描いた作品集。5作品が収録されている。
私が会社勤務を始めた時、住まいは独身寮だった。会社から5-6分のところに3棟あって60人が生活していた。どんどん若者が入社してくる時代だった。私の前までは2人一部屋だった。私の寮は一人部屋だったが、他の場所にある寮はすべて2人一部屋だった。当時の社員の平均年齢は30歳になるかならないか。ところが石油ショック、円高ショックが起き、一気に不況になり、採用が大幅に減った。今とは状況は違うが、バブルがはじけた時も悲惨だった。そんな経過を経て、社員の平均年齢は40代後半になってしまった。若者の割合が減ったのだ。
入社の頃は、会社の周りにはたくさんの飯屋があった。寮でも食事は提供されたが、酒が禁止されていたので、多くの独身たちは、寮への帰り道に飯屋に立ち寄りご飯を食べて帰った。
そんな時、飯屋では色んな定食と同時に、お酒かビールが提供された。腹を減らした独身たちは、焼肉やコロッケと付け合わせをつまみにして酒を飲んだ。そして食事終了と同時にお金を払って寮に向かった。
主人公の沙也加。夫健太郎とは合コンでしりあった。沙也加の父はまずご飯を食べてから、ゆったりスコッチを嗜む。ところが健太郎はごはんを食べながら酒を飲む。一生懸命ご飯を作ったのに、お酒と一緒に流し込む健太郎を受け入れられなかった。それで愚痴を言うと、今度は、家でご飯を食べなくなった。駅近くにある、「雑」という食堂でご飯を食べてくるようになる。そして最後には、君とは暮らせないと離縁状を置いて家をでてしまう。
それで、「雑」で女性と出会って酒を楽しんでいるのではないかと、「雑」のアルバイト募集の張り紙をみて、応募して仕事を始める。その店は、おばあさんが一人でやっていた。屋根も古くくずれおちそうな店でとても、カップルで入るような店ではない。おばあさんも客と一切会話はせず、お愛想はまったく言わない。味付けは焼肉のタレにみりん更に砂糖をいれかなり甘味が強いタレ。これはダメと思い、沙也加は醤油みりんを中心にしてタレをつくり、それを使おうとすると、おばあさんがそんなことをしてはダメと止められる。「ここは料理や味を楽しむ店ではない。食事をするだけの店なんだ」と叱られる。
そう、そんな食堂が会社のまわりにはあった。飯と一緒に酒を流し込む店が。
平均社員年齢が40代後半になった今は、そんな食堂は全部消えた。
収録されている、原田ひ香の『定食屋「雑」』より。
この書評へのコメント