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菓子職人の作る治兵衛の菓子にまつわる話を描いた短編集、キャラクターもプロットも秀逸で、敵役すら治兵衛の人生を輝かせる捨て台詞を吐いて去る名作。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
まるまるの毬
西條奈加作「まるまるの毬」を読みました。西條先生の人情時代小説です。

【カスドース】武家屋敷ばかりが並ぶ麹町に変わった菓子屋、南星屋がありました。いつも昼頃に店を開け、もう還暦を迎えた店主治兵衛が日本中で習い覚えて来た名物菓子を日替わりで商います。うまいその菓子を求めて長い行列が出来、じきに売り切れてしまいます。娘のお永と孫のお君が接客します。店が閉まると月に2~3度治兵衛の弟、名刹相典寺の住職石海が、粗末な袈裟をまとって菓子を食べに訪れました。先日食べた印籠カステラを賛美しますが、治兵衛は原価が高いのでもう作らないと言いました。石海は、どこかで食べた味だと言いました。

兄弟の生家は500石の旗本岡本家でした。治兵衛は2男、石海は3男でした。治兵衛は10歳で武士の身分を捨て、菓子職人に弟子入りしたのでした。岡本家は長男が継いで他界し、息子の代になっていました。治兵衛は江戸で10年修行して諸国を漫遊して16年も修行を重ねました。次々に目新しい菓子を目の当たりにし、治兵衛は廻国修行を続け、帳面に新しい菓子をメモし続けました。女房とも旅先で知り合い、共に廻国を続けました。お永も旅先で産まれました。旅先で女房を亡くし、娘を連れて江戸に戻りました。

麹町に南星屋を開き、お永は左官職人と結婚しましたが、亭主が浮気して孫のお君を連れて出戻って来ました。そんな幸せな生活は、ある日打ち破られました。南町奉行所に、印籠カステラが肥前平戸藩松浦家の門外不出のお留め菓子、カスドースを真似たものだと咎められたのでした。実は実家の岡本家には兄弟が幼い頃。。。実は治兵衛の真の父親とは。。。平戸藩家老の矢萩と国許で百菓乃図編纂に関わる若い侍河路金吾が見届ける中、治兵衛は。。。

【若みどり】治兵衛は毎日朝早く起き出し、その日に作る菓子を決めるのでした。実は気まぐれな治兵衛だったのでした。そこへ客が訪いました。10歳くらいの武家の子供翠乃介でした。菓子職人になりたいと言いました。翠乃介の家は逼迫しており、妹の菓子を南星屋で買うのだけが楽しみだったのでした。弟子にはしないと治兵衛はそっけなく言いましたが、菓子作りを見に来ても良いと翠乃介に言いました。それから半月、翠乃介は南星屋に通いつめました。毎日妹用にお菓子を持って帰りました。治兵衛は孫を可愛がるように彼に接しました。

しかしついにある日、治兵衛は翠乃介に聞きました、親はここに来る事をどう思っているのかと。やはり翠乃介は親に無断で来ていたのでした。しかし父親が店に怒鳴り込んで来、翠乃介は父親のような侍にはならないと言って父親に殴りつけられました。そこに仲裁に入ったのはあの金吾でした。話し合いをする内に父親は意外な事を告白し。。。

【まるまるの毬】このところ娘のお永の様子がおかしい事に治兵衛は気づいていました。そわそわと落ち着きがなく、いつも心ここにあらざる様子でした。亭主の修造に女が出来た時もこういう風だったと治兵衛は不安に思いました。お君もお永を不審がっていました。亭主と別れたしばらく後、お永はお君に、月見団子のように気持ちのまあるい女になれと言われたのでした。不満を言い募るお君をそう言ってたしなめたのでした。お君は、お永の様子が変なのは、恋患いが原因だろうと言いました。そんな中、お永が突然外出すると言い出し、お君は金吾をお供に跡をつけました。お永が会っていたのは実は。。。実はお永は情の強い所があり。。。

【大鶉】治兵衛は岡本家の当主、慶栄に強く請われて実家を訪れていました。彼だけが治兵衛の素性を聞かされていました。良い役につけない慶栄は、治兵衛をそのとっかかりにしようと企んでいたのでした。しかし治兵衛にとってはただ居心地が悪いだけだったのでした。その席で大店の菓子屋、柑子屋が声をかけてきました。柑子屋は治兵衛の店を自分のライバルだと敵視していました。。。

治兵衛は庭の大きな椎の木を見て感慨に耽りました。小さい頃、弟の石海がいじめっ子を撃退したのに、いじめっ子の父親の方が身分が上であった為に謝罪を強要され、怒った石海は椎の木に登って降りて来なくなりました。しかし石海は実は。。。それを察した治兵衛は。。。治兵衛が菓子屋を志したのはそれが原因でした。。。

【梅枝】今日も金吾が南星屋を訪れて治兵衛の仕事を眺めていました。お君の事件以来、治兵衛の菓子作りを見学に来るようになり、お君とも気軽に言葉を交わしました。2人の仲が近所の噂になっていました。折柄石海が現れ、お君と金吾が深刻な顔で話し合っていたと言いました。石海に問い詰められてお君は、金吾の父親が卒中で倒れたのだと打ち明けました。そして金吾は、平戸に帰るからお君にも一緒に来てくれと言ったのだと言いました。。。治兵衛は平戸藩の江戸屋敷を尋ね、金吾に事情を質しました。金吾は自らの本気を示し、治兵衛は行儀見習いに1年はかかると言いました。。。

【松の風】お君は岡本家で行儀見習いを始めました。治兵衛と石海は岡本家を訪問しました。現れたお君は裾の長い絹物をまとい、すっかり女らしく変貌していました。当主慶栄の母で教養豊かな芳子に気に入られていました。持参した土産の菓子を慶栄は褒め、岡本家出入りの柑子屋は店が内紛し、すっかり味が落ちたとぼやきました。その言い訳か、柑子屋は頻々と慶栄を料理屋に招待しました。。。

柑子屋が突然現れ、治兵衛に不穏な事を言い掛けました。慶栄から治兵衛の秘密を聞きだした模様でした。柑子屋は治兵衛に、父親によっていつも治兵衛と引き比べられていた自分の恨みを打ち明けました。。。。

【南天月】徒目付組頭、有馬が南星屋を訪れ、治兵衛の素性について質しました。治兵衛は自分の父親が深夜長男と、家督について密談するのを聞いていた時の事を思い出しました。父親に家を出て菓子屋になると言い、父親は治兵衛の素性について治兵衛に打ち明けました。石海は自分が寺に入るから治兵衛の頼みを聞いてくれと父親に頼み。。。実の父親が亡くなった7回忌に石海は、治兵衛の実父は実は子供を可愛がる男だったと言いました。しかし騒ぎのとばっちりを食い、金吾とお君の仲は。。。それを聞いた治兵衛は。。。さらに石海と慶栄にも暗雲が。。。

お君は平戸藩江戸屋敷を訪問し、意外な事を願いました。それに対し平戸藩家老矢萩は、お君と治兵衛に耳寄りな情報をくれました。治兵衛は家族の為に自分の菓子職人として持てる知識を動員し、事態収拾に向かうのでした。。。ついに一家を救ったのは治兵衛の。。。

全編菓子職人の作る治兵衛の菓子にまつわる話です。しかし、たかが菓子、されど菓子です。特に最終編、南天月で治兵衛が最後に工夫した菓子は、哀れさが際立つ物語でした。亭主治兵衛と娘のお永、孫のお君に弟の石海を加えた家族は結束し、治兵衛の菓子を元に、襲いかかる運命を切り開いていきます。それぞれの登場人物のキャラが立っているのは西條先生のお約束なのだろうと思います。プロットもトリックも素晴らしい。敵役すら治兵衛の人生を輝かせる捨て台詞を吐いて去ります。次作が楽しみでなりません。
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  • 掲載日:2026/05/01
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