庄野さんがまだ若い頃の作品を7篇あつめた短編集です。著者の初期(まだ私小説作家になる前)の作品を是非読みたかったのです。発表年の早い方から2篇紹介します。
舞踏は物語の最後の場面で若い夫婦が自宅の二階で音楽に合わせて踊るのですが、夫婦の間の緊張関係は踊ることによって緩和される訳でもないようなのです。昭和25年発表の作品です。
3歳の娘がいる若い夫婦の夫は役所勤めで、妻は結婚する前に両親を亡くしています。二人は幼馴染だっかのかもしれませんが、妻が二十歳の時に結婚して子供ができたら、夫は職場の19歳の女子職員と浮気を始めたのでした。夫が自分を顧みない辛さに耐えていることを妻は手紙を書いて夫に訴えますが、夫は手紙を握りつぶして無視します。
妻が寂しさに家で泣いていると、夫は妻に対して、ホームシックになった田舎者の女中のような真似はするなと叱るのです。夫は妻に対してはエゴイストですが、戦前生まれの男は皆そんなものかもしれません。(無意識に夫が妻を女中と同列に考えていることがわかります。)
ある晩、少女とのデートのため遅くなって帰宅すると、妻は布団の中で倒れています。夫は妻が服毒自殺したのかと、世間体を考えて大いに焦りますが、妻は安物のウイスキーをしこたま飲んで倒れていたのでした。夫はそんな妻に腹を立てるのでした。
初夏のある晩に夫が帰宅すると妻は二階にテーブルを出して料理を並べ部屋は提灯で飾られていました。夫は今日が7月14日のパリ祭(フランスの革命記念日)だと気が付きます。夫が妻に「外国のお祭りにまでお金をかけては破産する、あとのことを考えろ」というと、妻は「あとのことを?」といってふっと笑ったのでした。
とはいえ、夫はビールを飲むと朗らかになり、妻は夫に、パリに行ってみたい、パリでお針子になって暮らしたいと言いました。ここでお話は終わるのですが、夫は気が付いていませんが妻の方はある決意を固めたような気がしました。
プールサイド小景は昭和29年の作品です。まだ小学生の男の子が二人いる夫婦の物語ですが、夫が会社のお金を横領して解雇されてしまいます。その金は何に使ったのかを夫は話しませんでしたが、妻には女に貢いだのだということが分かってしまいます。
やることがない夫は出身高校のプールで子供を泳がせなから過ごしていたのですが、妻に言われて朝の出勤時間に合わせて家を出るようになるという話です。貯金ももうすぐ底を突く状態なので結構深刻なのですが。(当時の失業保険はどうなっていたのかな?)
失業してから夫は妻に職場でのそれまでの生活について語りますが、それは不安と苦痛に満ちたものだったというのです。妻には思いもよらないことでした。妻は台所に立ちながら夫が無事帰宅することを祈るのでした。その後この夫婦がどうなったのかは語られません。
どちらも戦後間もなくのサラリーマンの核家族のお話です。職場での浮気や解雇は珍しい話ではなかったのでしょうが、妻の立場から語られるのが当時としては新しかったかもしれません。専業主婦の立場がかなり弱かったということがよく分かります。そしてこの男たちは家庭では満たされないのでした。
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