清張のスリリングな名短編「地方紙を買う女」にでてきたのが本書なのです。さわりはこんな感じね。
山梨県の地方紙『甲信新聞』に「野盗伝奇」を連載している作家の杉本隆治は、東京に住む潮田芳子という女性が「野盗伝奇が面白そうだから貴紙を読んでみたい」との申し込みがあったことを知る。あまりそういうことがなかったのでうれしくなった杉本は彼女に礼状を送る。だが、それから一ヵ月もたたないうちに、「小説がつまらなくなったのでもう購読しない」との断りの連絡が入る。物語も中盤に入り、これからおもしろくなるところなのに、この小説が読みたいといって購読した人がこのタイミングで断るのは腑に落ちない。なぜだろう?と訝る杉本の目に断られた回の載っている『甲信新聞』のとある記事が飛び込んでくる。
どうですか?これがきっかけでとある事件の全貌が明かされることになるのだが、この導入すごく魅力的でしょ?そこで本書なのである。清張初期の時代物であり、歴史物ではない完全オリジナルの伝奇小説、しかも読んでみるといい意味ですごく軽くスイスイ読めちゃう作品なのである。
こちらは、タイトルからも察せられるように伝奇風味の作品で、関ケ原直後の凄然とした時代に生きる乱波の世界を描いている。主人公がまた、いい男なんだけどちょっとひねくれているダークヒーロータイプで、読者の共感を撥ねつけるスタンスから物語が綴られていくのがおもしろい。だってこの男、徹頭徹尾ニヒルでクールなスタンスを崩さないのだ。美女に好かれてもなんとも思わないし、敵を撃つのに卑怯な手も辞さないのだ。話的には剣戟に美女の受難、そして連載物として興をつなぐための急な場面転換の連続で、清張さんが楽しんで書いていたのか、それとも苦しみながら捻り出していたのかと、違う意味でドキドキしながら読んだ。
清張時代小説は、歴史物しか読んでなかったので、こういう自由なオリジナル作品は新鮮だった。そこで冒頭で紹介した「地方紙を買う女」きっかけの話なのだが、たしかにラスト寸前の丁々発止の部分で読むのをやめるのは、なかなか難しい。短い作品だから、登場人物に愛着がわいてくる頃にはもう終盤、でもそこで読むのをやめようなんて思わない。清張がこの作品を後に自身のミステリ短編で引っぱりだしてきたのもわかる気がするのである。
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