久々の再読になります。
本作は、3つのストーリーが並行的に語られる構成を採ったSFなのですが、その主となる物語は、ホメーロスが『イリアス』に著したトロイア戦争です。
トロイア戦争は、トロイア(イリアム)とギリシャ(当時はまだギリシャは成立しておらず、アカイア+その他の地域というのが当時の名前になります)との長きに渡る戦争で、トロイアの包囲戦です。
そのきっかけは、パリスによる三美神の美人選びに端を発し、有名な『トロイの木馬』などのエピソードも含み、その後はオデッセイの帰還物語へとつながっていく戦争であることは皆さんご存知のとおりです。
ホメーロスは、このトロイア戦争にギリシャ・ローマ神話に登場する神々が関わっていたように書いていますが、実際に神々は存在し、それぞれの思惑からある神はトロイアを支援し、他の神はアカイアを援助するという、まるで神々の代理戦争のような様相を呈していたというのが物語のミソになります。
神々の様々な力は、量子コントロールによりもたらされた超先端技術であり、あるいはナノ・テクだったというのがSFらしいところで、神々はQTと呼ばれる瞬間移動技術や、ゼウスの雷に代表されるようなビーム兵器を駆使し、あるいはナノ・テクにより人間の兵士を強化するなどして人間たちの戦いに介入しているという設定です。
この物語の語り手は、20世紀に生きたホッケンベリーという歴史学者なのですが、彼は神の力により蘇生され、学師としてトロイア戦争が行われている世界に復活させられ、トロイア戦争の帰趨を観察・記録する役割を神によって担わされているのです。
ホッケンベリーのような学師は、様々な時代から選ばれて蘇生されており、多数の学師がこの戦争を記録しているのです。
何のためにそんなことをしているのかは今一つ説明されていないのですが、あるいは、ホメーロスが著した歴史としての『イリアス』が、神々の介入によって変えられてしまっていないかどうかを検証させているのかもしれません。
ということは、このトロイア戦争は一体いつ、どこで行われているというのでしょうか?
これもまだはっきりとは書かれていないのですが、どうやら人類(作中では旧人類と呼ばれています)が衰退し、それに代わるPH(ポスト・ヒューマン)という存在が世界を支配している未来世界が舞台になっており、トロイア戦争は未来のテラ・フォームされた火星で行われているように思われます。
旧人類は未だに細々と生存しているのですが、PHにより100年の寿命を与えられるもその人口は厳密に管理され、寿命をまっとうした後は地球を取り巻く2つのリング世界に昇天させられると信じられていました。
しかし、旧人類は過去の記憶を失っており、また文字なども持たない、PHにより与えられる技術をただ無批判に享受しているだけの存在に成り下がっているようです。
物語のもう一つの軸は、旧人類の一部の者が、自分たちの存在やこの世界に対し疑問を抱き、その秘密を解き明かそうとしているというものです。
こちらの物語では、まもなく100年の寿命を終えようとしている旧人類のハーマンが主人公的な役割で描かれます。
そしてもう一つの物語は、木星周辺に勢力圏を有していると思われる機械化されたモラヴェクと総称される知的生命体です。
彼らは、火星での量子異常(それはおそらく神々が盛大にその技を駆使していることによって生じていると思われます)を感知し、その原因を探査するために4人の種族代表を探査に向かわせるという物語として描かれます。
しかし、火星軌道に侵入したところで、神の空を飛ぶ馬車に発見され、強烈なビームにより宇宙船は破壊され、かろうじてマンムートとオルフの2人だけが火星に不時着します。
本作は、この3つの物語が交互に語られる構成になっているのですが、特にトロイア戦争のくだりが非常に壮大に描かれており、ぐいぐいと読ませるローカス賞を受賞したページターナーです。
ホッケンベリーは、当初は単なる観察者・記録者だったのですが、神々の争いに巻き込まれ、アフロディテから姿を見えなくする兜とQTを可能にするメダルなどを与えられ、そのスパイとして有無を言わせず徴用されてしまいます。
アフロディテは、どうやら敵対するアテナの動向を探らせ、最終的にはアテナを暗殺する役割をホッケンベリーに担わせようとしているように思われます。
このため、ホッケンベリーの運命は大きく変えられてしまい、ホッケンベリーは自分が生き残るためにアフロディテすら裏切る行動に出るという展開が上巻で描かれます。
最初に読んだ時、その面白さに面食らった記憶があり、この度再読してみました。
結構長大な作品になっており、本作の後には全3巻の『オリュンポス』が控えているという大長編なのですが、とりあえず、イリアムからご紹介しましょう。
読了時間メーター
■■■■ むむっ(数日必要、概ね3~4日位)
『イリアム』(下)
『オリュンポス』(1)
『オリュンポス』(2)
『オリュンポス』(3)
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