アガサ・クリスティーが1938年に発表した、エルキュール・ポアロ物の一作。
なんといっても、導入部がいい。
「彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
こんなセリフから始まる。しかも、それを聞いていたのがポアロで、「おれは、どうしてこうもいたるところで犯罪を連想させられるようなものにぶつかるのだろう!」とつぶやいたりしている。
すわ、事件か!? と思いきや、殺人事件が起こるのはこの長編小説の半ばまで待っしかない。
それまで被害者となるわがままし放題の老婆と彼女に隷属する息子や娘たち一家の、死海への観光旅行の様子が描かれていく。この一家に関わっていく医学博士や女医、あるいはたまたま同じツアーにはいった活発な女性代議士など、もちろんこれら登場人物の中に犯人がいるのだから、その挙動には目が離せない。
そして、後半はポアロによる謎解きで、今回も関係者全員にその時々の様子を聞いていく。
この作品には謎解きの他にもうひとつ悩ましい問題がある。
それは被害者となる老婆が誰もが認めるひとでなしなのだ。彼女が死んだことで一家の誰もが安堵していて、もしこの場にポアロがいなかったら、彼女の死は病死扱いとなっていたかもしれないのである。
これとよく似た事件がある。そう『オリエンタル急行の殺人』だ。
しかし、今回の事件ではポアロは犯人を追い詰めていく。
彼にとっては、被害者がどのような人物であれ、殺人を犯したものは見つけないといけないということだろう。
さて、あなたは犯人を突き止められただろうか。
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