紅い芥子粒さん
レビュアー:
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白は白で美しい。黒は黒で美しい。青は青で、茶色は茶色で美しい。あたりまえのことなのに、差別の底にあるピコーラは、気づくことができない。教えてくれる人もいない……
ト二・モリスンは、1931年、アメリカオハイオ州に生まれた。アフリカ系アメリカ人の女性作家として初めて、ノーベル文学賞を受賞している(1993年)。
最初の1ページを読んだとき、これは童話なのかしらん、と思った。
緑と白のきれいな家には、やさしいお父さんとお母さんがいて、男の子と女の子が、かわいい犬や猫となに不自由なく暮らしている。しあわせの典型。理想の家族。
ページをめくると、童話的ユートピアとはかけ離れた、黒人の少女ピコーラの物語が始まる。ピコーラの友人クローディアを語り手として。
ピコーラの父親は、自分の家を燃やして、家族を家無しにしてしまうような人だった。彼は、生後間もなく生みの親にゴミ捨て場に捨てられ、誰にも愛されることなく育った。
ピコーラの母親は、おさないころに足のケガを放置されたせいで、歩行が不自由になった。
白人の家庭の家政婦をして、お金を稼いでいる。
自分の娘の火傷をそっちのけにして、雇い主のお嬢ちゃんにおいしいパイをやいてあげるような母親だ。彼女は、自分の黒い肌を憎んでいたのだろう。黒い肌の自分の娘なんて、見るのもいやだったのかもしれない。白人家庭の家政婦という仕事は、幸福を錯覚させてくれる逃げ場所だったのだ。
誰もかれもがピコーラをいじめた。
黒人の男の子までもが、ピコーラを「くろんぼ」といって、ののしった。
彼らは、自身も差別されているうっぷんを、さらに弱いピコーラをはけ口にして、晴らしていたのにちがいない。
ピコーラは、自分が不幸なのは、醜さのせいだと考える。
いつもいつも、神様に祈っていた。
青い眼をください。白人の女の子のような青い眼を……
美に優劣なんてつけられないのに。
白は白で美しい、黒は黒で美しい。青は青で、茶色は茶色で美しい……。
あたりまえのことなのに、差別の底にあるピコーラは、気づくことができない。教えてくれる人もいない。
やがて、ピコーラは、父親に犯され妊娠する。
ピコーラの友人のクローディアは、自分の家の小さな庭の黒土に、マリーゴールドの種をまいた。
ピコーラのあかちゃんが無事生まれますように、せめて一週間は生きていますように、と願いをこめて。
願いもむなしく、あかんぼうは死んで生まれる。
マリーゴールドの種も、ひとつも芽が出なかった。
なぜそうなったのだろうと、クローディアは考える。きっと土が合わなかったのだと、思い至る。
アフリカの土壌でなら、ピコーラという花も、美しく咲くことができただろうに。
この小説が書かれたのは、1962年。ピコーラの物語は、1941年のできごとである。
80年後の2020年。米国では、黒人差別に抗議して、人種を超えた人々の激しい抗議行動がある。
黒い花、白い花、青い花、黄色い花、茶色い花……
色とりどりの花が、米国の大地に美しく咲き誇る日がきっとくるよ、ピコーラ。
家があります。緑と白の家です。赤いドアがついています。……
最初の1ページを読んだとき、これは童話なのかしらん、と思った。
緑と白のきれいな家には、やさしいお父さんとお母さんがいて、男の子と女の子が、かわいい犬や猫となに不自由なく暮らしている。しあわせの典型。理想の家族。
ページをめくると、童話的ユートピアとはかけ離れた、黒人の少女ピコーラの物語が始まる。ピコーラの友人クローディアを語り手として。
ピコーラの父親は、自分の家を燃やして、家族を家無しにしてしまうような人だった。彼は、生後間もなく生みの親にゴミ捨て場に捨てられ、誰にも愛されることなく育った。
ピコーラの母親は、おさないころに足のケガを放置されたせいで、歩行が不自由になった。
白人の家庭の家政婦をして、お金を稼いでいる。
自分の娘の火傷をそっちのけにして、雇い主のお嬢ちゃんにおいしいパイをやいてあげるような母親だ。彼女は、自分の黒い肌を憎んでいたのだろう。黒い肌の自分の娘なんて、見るのもいやだったのかもしれない。白人家庭の家政婦という仕事は、幸福を錯覚させてくれる逃げ場所だったのだ。
誰もかれもがピコーラをいじめた。
黒人の男の子までもが、ピコーラを「くろんぼ」といって、ののしった。
彼らは、自身も差別されているうっぷんを、さらに弱いピコーラをはけ口にして、晴らしていたのにちがいない。
ピコーラは、自分が不幸なのは、醜さのせいだと考える。
いつもいつも、神様に祈っていた。
青い眼をください。白人の女の子のような青い眼を……
美に優劣なんてつけられないのに。
白は白で美しい、黒は黒で美しい。青は青で、茶色は茶色で美しい……。
あたりまえのことなのに、差別の底にあるピコーラは、気づくことができない。教えてくれる人もいない。
やがて、ピコーラは、父親に犯され妊娠する。
ピコーラの友人のクローディアは、自分の家の小さな庭の黒土に、マリーゴールドの種をまいた。
ピコーラのあかちゃんが無事生まれますように、せめて一週間は生きていますように、と願いをこめて。
願いもむなしく、あかんぼうは死んで生まれる。
マリーゴールドの種も、ひとつも芽が出なかった。
なぜそうなったのだろうと、クローディアは考える。きっと土が合わなかったのだと、思い至る。
アフリカの土壌でなら、ピコーラという花も、美しく咲くことができただろうに。
この小説が書かれたのは、1962年。ピコーラの物語は、1941年のできごとである。
80年後の2020年。米国では、黒人差別に抗議して、人種を超えた人々の激しい抗議行動がある。
黒い花、白い花、青い花、黄色い花、茶色い花……
色とりどりの花が、米国の大地に美しく咲き誇る日がきっとくるよ、ピコーラ。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:323
- ISBN:9784151200069
- 発売日:2001年06月01日
- 価格:819円
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