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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
この場所から、鳥のいる場所へ誘う、不思議の図鑑、とも思う。
ユカワアツコさんの鳥の絵は、古い箪笥の引き出しの中(底)に描かれる。
ハシブトガラスやスズメなど、町のなかでもおなじみの鳥もいるが、サンコウチョウ、キレンジャクなどなかなか会えない鳥もいる。
みな、それぞれにお気に入り(?)の木の枝や草の上、水場などで、お気に入りのポーズでいる。
引き出しの木目も、絵の内のようで、水面の波紋、あるいは鳥の後ろの樹林のよう、あるいはもしかしたら雨が降っているのかな、とも思う。
引き出しの縁が額縁や窓枠に見えて、引き出しの中は、こことは別の外と思うのだ。

写真は、長島有里枝さん。この引き出しの鳥たちが置かれているのは、部屋の片隅、本棚や机の上、窓辺、あるいは台所の一隅、それから、庭先の敷石の上。どの場所も、毎日誰かがせっせと掃除をして清めてきたのだろうなと思うような、古い民家。
古い(鳥の)引き出しがしっくり馴染む。馴染んで、鳥のいるもうひとつの場所に通じる、開け払った特別の入口になる。
私が特に好きなのは、本棚(ここには茶色の古い本が行儀よく並ぶ)の本の間に置かれたアオバズクの引き出し。ケヤキの枝に止まるアオバズクだ。引き出しの中のアオバズクのいる森を囲んで、本棚の本たちが樹木のようだと思ったり、絵の中の樹が本のようだ、と思ったり。

そして、写真に添えられているのは、梨木香歩さんのエッセイだ。鳥と(鳥の背景にある)植物についての。
著者の思い出の中から、鳥と出会う光景が浮かび上がる。
年老いたコゲラは、早朝、ねぐらから出勤し、夕方帰宅する。いったいどで何をしているのか。
カヤックの上からみた潜水中のカイツブリのこと。
新緑に顔を隠してアオバズクが覗く大ケヤキの梢。
ヨタカには、『よだかの星』を思いつつ、「何が人の幸せであるかを決めるのはその人自身だ」という。
カルガモは渡り鳥だが、著者が目を向けたのは、日本で冬を過ごし、さらに夏も一人きりで迎えようとする鳥のこと。
印象に残る箇所を、拾いだしたらきりがない。

「あとがき」に、
「鳥は、その場を「飛び立てる」という可能性を秘めたもの」
という言葉がある。
そうっと読まないと、次に開いたとき、本のなかから、一斉に鳥たちが飛び去ってしまうかもしれない。
布貼り、糸とじの、抱き締めたくなる美しい本だ。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1744 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. toribakohouse2021-05-18 18:47

    あっ、私もこの本持ってます!時々眺めるにはうってつけの本ですよね。

    アオバズクと一緒に並ぶ本もなかなか魅力的ですよね。
    『離島生活の研究』ってすごい気になりました(笑)

  2. ぱせり2021-05-18 20:03

    toribakohouseさん、ほんとに楽しい本ですねえ。
    本棚の本、そうなんですか?『離島生活の研究』なんて、ワクワク楽しすぎます。

  3. No Image

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