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かもめ通信
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サハリンの先住民族ニヴフに伝わる口承文学を、話者自らが日本語で語り直したものを元に書き起こした貴重な1冊。
ロシア・東欧文学研究者であり、文芸評論家、翻訳家として活躍されている沼野充義さんが、2020年3月末、東京大学を定年退職された。
当初予定されていた最終講義とシンポジウムは、新型コロナウイルス感染対策のために中止となってしまったそうだが、「東大教授としての最終講義」はYouTubeにて生配信され、大きな反響を呼んだ。
私も北の果ての自宅でその配信をしっかり堪能させて戴いたのだが、中でもとりわけ印象的だったのは、サハリン島の先住民族ニヴフの詩人で作家のヴラジーミル・サンギさんへのインタビュー動画だった。
詩が、詩人が、生まれる瞬間に立ち会わせて貰ったようなその動画は、一見、二見の価値があると思うので、興味のある方は是非、 ALL REVIEWSをチェックしてみてはどうだろうか。

 
講演を聴きながら、思い出したのが、昔読んだこの本と、数年前、群像社から出て、読もう読もうと思っていたサンギさんの小説『ケヴォングの嫁取り』だった。

そんなわけで、久々の再読。

ニヴフ(Nivkh)は、樺太北部及び対岸のアムール川下流域に住む少数民族。
この本のタイトルにあるギリヤーク(Gilyak)という呼称は樺太アイヌ語に基づく呼び名で、現在では彼らの自称に基づいてニヴフと呼ばれるが一般的なのだそう。

そういうことであるならば、本来「ニヴフ」と表記するべきなのだろうが、このレビューに限っては本書に沿って、ギリヤークと表記させていただく。

この本の解説によれば、ギリヤークの言語は今のところ、現存する他のいかなる言語とも関係づけられていないとのこと。
文字は持たなかったが、歌謡、なぞなぞ、祭の祝詞、叙事詩、昔話などの口承文芸を持っていた。

この本は1906年(明治37年)に南樺太のシスカ(敷香)で、サンタン人(山丹人)の父と、ギリヤーク人の母の元に生まれ、戦後、日本に引き揚げてきた中村チヨさんの口述に基づいて編纂された物語集だ。
ギリヤークの民はツングース系統に属するオロッコ族や樺太アイヌとの接触があったようで、本書に収められている物語の中にも、アイヌの伝承などがいくつもある。

ギリヤーク語研究のために、中村チヨさんのギリヤーク語の語りをいったん録音した上で、そのテキストをチヨさん本人に日本語で語ってもらって、それを文字におこしているため、その語り口調は独特で、文字で読むには少々読みづらいところもあるが、ひとつひとつ、ゆっくり読めば、おばあちゃんの昔語りのように心地よく楽しむことができる。
また語りの後に現代語訳(?)というのか、内容の要約文もついてもいる。

欲を言えば、ギリヤーク語の音声もセットで聞けたらなおすばらしいものになっただろうが、なにしろ予算がなかったのだと思う。

今ならば、いろいろな方法で可能なのでは?
せめて、一つか二つでも、ギリヤーク語の音声と紐付けて紹介できるのではないかしら。
そういう特典付き再版も含めてどこかで検討してくれたら良いのになあなどとも思った。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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