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サワザキ
レビュアー:
これは自由についての話なんだ。あまりにも大きな絶望、あまりに圧倒的で、すべてが崩れ落ちてしまうほどの絶望、そういうものを前にしたとき、人はそれによって解放されるしかないんだよ。それしか選択はないんだ。
 本書では大学生である マーコ・フォッグの目を通して、三人の男たち(マーコ・フォッグ自身、トマス・エフィング、ソロモン・バーバー)の人間社会からの離脱と再加入とでもいうべき人生が語られる。本書のあらすじは他のレビューアの方々がたくさん書いておられるので、自分は読後に感じたことをつらつら書きたいと思う。

 カフカの第一長編「失踪者」は、主人公カールが、社会の一員になろうと奮闘しながらも不可解な理由で色々な組織を追放され続けるというストーリーだったと記憶しているが、本書の三人は皆、何らかの絶望が理由ではあるが、自らすすんで所属する社会を離れることになる。
 しかし、異なるのは社会からの離れ方だけではない。「失踪者」のカールは最後まで社会や他人とのつながりが感じられず孤独なままという印象であったが、本書の三人は皆、離れたはずの社会や誰かとつながっていて完全に孤独な状態にはならない。
 トマス・エフィングが「月や星との関係においてのみ、人は地上でのみずからの位置を知ることができる」と語るシーンもあいまって、人間は他人との関係性においてのみ存在し得る、完全な孤独なんてあり得ない、本小説を読み終わった後、真っ先にそういう感覚が思い浮かんだ。

 自分は上記のように感じたが、本書は複雑で多義的になっているので、読者によって感じることは様々だと思う。
 御都合主義と言われても仕方がないくらいの度重なる偶然と、マーコ・フォッグと実父がニアミスしながらも中々対面しない回想シーンの対比から偶然(機会、出会い)の希少性が描かれているとも感じるし、訳者が解説で述べておるとおり、「人はいったんすべてを失わなければ何もえることはできない」、「自分の死を実感することを通じてはじめて生の可能性も見えてくる」というテーマを感じることもできるだろう。

 本レビューはとりとめのないものとなってしまったので、この小説がどのようなものか皆さんに伝わらなかったかもしれないが、一読の価値は間違いなくあると思う。ただし、私はオースターについては、初期のニューヨーク三部作(ガラスの街、幽霊たち、鍵のかかった部屋)の無機質な感じのほうが好みであるので、どちらも未読ならば、ニューヨーク三部作から読まれることをおすすめしたい。
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サワザキ
サワザキ さん本が好き!1級(書評数:42 件)

読書、お酒、温泉、JAZZ、マラソンをこよなく愛する関西出身(関東在住)のオッサンです。仕事で法律書と技術書を読まないといけないので、備忘録も兼ねて書評を書いていきたいと思っています。

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