ぽんきちさん
レビュアー:
▼
あの遠い夏の日の思い出。
社会派ミステリ。
小さな興信所に、1人の女性から電話が来る。いなくなった息子を探してほしいというのだ。
だが、息子がいなくなったのはなんと23年前だという。いくら警察や大手が手詰まりだからと言っても、そんな昔の事件を弱小の事務所が解決できるはずがない。
所長の鑓水(やりみず)は断ろうとする。だが、女性が差し出した現金の多さに押されるように受けてしまう。
そして女性は忽然と姿を消す。
同じころ、鑓水の友人で警察官の相馬は、別の事件の捜査にあたっていた。
少女の失踪事件。少女の祖父は元検察の上級職で、現在は犯罪コメンテーターだった。失踪現場に残された奇妙なマークに、相馬は息を呑む。
//=|
それはかつて、ひと夏を共に過ごした友人が姿を消した現場に残されていたものだった。
鑓水の元に持ち込まれた事件の失踪少年は、実は相馬の友人だった。
23年前の夏の思い出と現在を行き来しながら、鑓水と相馬は、興信所調査員の修司とともに、2つの事件の背景を追っていく。
その陰には、1つの痛ましい冤罪事件があった。
著者・太田愛は脚本家としても活躍している。
本作は三部作の2番目の作品で、本作の前の「犯罪者」では、相馬・鑓水・修司の出会いが描かれているという。おそらくそちらから読んだ方が主人公たちの人となりはわかるが、本作の事件は独立しており、こちらから読み始めても大きな支障はないと思われる。
本作の大きなテーマは冤罪である。
被疑者を追い込んで無理な自供を誘う「叩き割り」や、冤罪だとわかったのちも訴訟を起こさないよう「恨みません調書」と呼ばれる念書を提出させるなど、実際の冤罪事件で問題となった事柄も織り込んで描かれる。
もちろん、冤罪は大きな問題であり、その背景に警察組織を守ろうという有形無形の力があるのであれば大きく糾弾すべきで、その意欲は買う。
が、それと作品としての評価はまた別だろう。
全般にいささか都合のよい展開が多く、無理が多いように感じる。
発端となった事件では、こんなに不運が重なることが果たしてあるかと思うほど、最初の事件の「被害者」は気の毒である。発端は確かに冤罪だが、それにしても運も悪すぎる。
女性が興信所に依頼し、その興信所が少年の幼馴染の警官である相馬とつながっているというのもいささか無理筋だろう。女性がそのことを知っていた可能性もあるが、そのあたりは描き込まれていないのでよくわからない。女性にそんな調査能力があるのなら、相馬に直接コンタクトを取ろうとするか、それよりも、まず息子を探し出せるのではないか。
とはいえ、リーダビリティは高い。
特に、相馬と失踪少年、そしてその弟の3人が過ごした夏の描写がすばらしい。
あの夏。戻らない日々。幸せだった最後の思い出。
そのきらめきが、「真犯人」の悲しさとともに胸に迫る。
小さな興信所に、1人の女性から電話が来る。いなくなった息子を探してほしいというのだ。
だが、息子がいなくなったのはなんと23年前だという。いくら警察や大手が手詰まりだからと言っても、そんな昔の事件を弱小の事務所が解決できるはずがない。
所長の鑓水(やりみず)は断ろうとする。だが、女性が差し出した現金の多さに押されるように受けてしまう。
そして女性は忽然と姿を消す。
同じころ、鑓水の友人で警察官の相馬は、別の事件の捜査にあたっていた。
少女の失踪事件。少女の祖父は元検察の上級職で、現在は犯罪コメンテーターだった。失踪現場に残された奇妙なマークに、相馬は息を呑む。
//=|
それはかつて、ひと夏を共に過ごした友人が姿を消した現場に残されていたものだった。
鑓水の元に持ち込まれた事件の失踪少年は、実は相馬の友人だった。
23年前の夏の思い出と現在を行き来しながら、鑓水と相馬は、興信所調査員の修司とともに、2つの事件の背景を追っていく。
その陰には、1つの痛ましい冤罪事件があった。
著者・太田愛は脚本家としても活躍している。
本作は三部作の2番目の作品で、本作の前の「犯罪者」では、相馬・鑓水・修司の出会いが描かれているという。おそらくそちらから読んだ方が主人公たちの人となりはわかるが、本作の事件は独立しており、こちらから読み始めても大きな支障はないと思われる。
本作の大きなテーマは冤罪である。
被疑者を追い込んで無理な自供を誘う「叩き割り」や、冤罪だとわかったのちも訴訟を起こさないよう「恨みません調書」と呼ばれる念書を提出させるなど、実際の冤罪事件で問題となった事柄も織り込んで描かれる。
もちろん、冤罪は大きな問題であり、その背景に警察組織を守ろうという有形無形の力があるのであれば大きく糾弾すべきで、その意欲は買う。
が、それと作品としての評価はまた別だろう。
全般にいささか都合のよい展開が多く、無理が多いように感じる。
発端となった事件では、こんなに不運が重なることが果たしてあるかと思うほど、最初の事件の「被害者」は気の毒である。発端は確かに冤罪だが、それにしても運も悪すぎる。
女性が興信所に依頼し、その興信所が少年の幼馴染の警官である相馬とつながっているというのもいささか無理筋だろう。女性がそのことを知っていた可能性もあるが、そのあたりは描き込まれていないのでよくわからない。女性にそんな調査能力があるのなら、相馬に直接コンタクトを取ろうとするか、それよりも、まず息子を探し出せるのではないか。
とはいえ、リーダビリティは高い。
特に、相馬と失踪少年、そしてその弟の3人が過ごした夏の描写がすばらしい。
あの夏。戻らない日々。幸せだった最後の思い出。
そのきらめきが、「真犯人」の悲しさとともに胸に迫る。
お気に入り度:





掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- ぽんきち2021-09-12 10:30
2021年夏文庫フェアに挑戦!(1) カドフェス https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no401/index.html?latest=20
9月20日まで開催中♪
コンプリートまであと2冊!
まだまだお立ち寄りお待ちしています☆クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:496
- ISBN:9784041059357
- 発売日:2017年08月25日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。