紅い芥子粒さん
レビュアー:
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少女のついた邪悪な嘘は、一人の若者とその恋人の人生を破壊した。
作家志望の夢見る少女ブライオニー。
その事件が起きたのは、彼女が13歳の夏だった。
広い屋敷のまっくらな森の中で、従姉のローズが何者かに凌辱されているところを、見てしまった。
逃げていく人影の背格好から、ブライオニーは、ある若者の名を思いつく。
ロビー。ブライオニーの家の掃除婦の息子。優秀で、ブライオニーの父の支援を受けてケンブリッジを卒業した。さらに医学部に進んで医者になろうとしている。
ブライオニーの邸に自由に出入りし、彼女が幼いころは、よく遊んでくれた。
小さいブライオニーを背中に乗せて、お馬さんになってくれたりして……
いまでは、ブライオニーの姉セシーリアの恋人だ。
ロビーでしょ、ロビーがやったんでしょ、とブライオニーは、傷ついて震えている従姉にたたみかける。
わからない、だれかはわからない、後ろからいきなり襲われて、顔なんて見えなかったからと、従姉はあいまいに首を振る。
それでも、あれはロビーよ、わたしにはわかるの、背の高さでわかったわ、とブライオニーは決めつける。
事件は法廷へ持ち込まれ、ブライオニーの自信たっぷりの証言で、ロビーの有罪は確定してしまう。
やがて、戦争が始まった。第二次世界大戦。
三年の懲役刑を終えたロビーは、戦場に送られる。
第二部で語られるのは、戦場で傷ついたロビーの過酷な運命だ。
彼を支えているのは、ポケットに潜ませている恋人セシーリアからの手紙。
帰ってきて。待っているから……
セシーリアは、ロビーを見捨てた家族とは縁を切り、看護婦として自立していた。
第三部では、姉の後を追うように見習い看護婦になったブライオニー。
戦場で負傷して送還されてきた傷病兵の看護に奮闘する日々。
それは、せめてものロビーへの罪滅ぼしのつもりだったのか……
さらに、第三部では、あの夏の事件の真実を読者は知ることになる。
嘘をついていたのは、ブライオニーだけではなかったということを。
彼女の嘘を隠れ蓑に、のうのうと生きている別の二人がいることを。
それでも、ブライオニーの嘘がなければ、ロビーと姉の人生が破壊されることはなかったのだ。
最終章は、1999年。77歳になったブライオニー。
彼女は作家となり、自分の罪と向き合い続けていた。
50人に膨れ上がった一族の待つ生家へ、主賓として招かれるが、そこにロビーと姉セシーリアの姿はない。
彼女は生涯かけて書き続けた、真実を告白する小説を携えていた……
ブライオニー、ロビー、セシーリアの三人の視点で物語は語られ、視点がかわるごとに読者に新しい事実が提示されていく。
読みだしたらやめられないおもしろさはあったが、少女の吐いた嘘があまりにも邪悪で、招いた結果が重大すぎて、読後もしばらく気が重かった。
その事件が起きたのは、彼女が13歳の夏だった。
広い屋敷のまっくらな森の中で、従姉のローズが何者かに凌辱されているところを、見てしまった。
逃げていく人影の背格好から、ブライオニーは、ある若者の名を思いつく。
ロビー。ブライオニーの家の掃除婦の息子。優秀で、ブライオニーの父の支援を受けてケンブリッジを卒業した。さらに医学部に進んで医者になろうとしている。
ブライオニーの邸に自由に出入りし、彼女が幼いころは、よく遊んでくれた。
小さいブライオニーを背中に乗せて、お馬さんになってくれたりして……
いまでは、ブライオニーの姉セシーリアの恋人だ。
ロビーでしょ、ロビーがやったんでしょ、とブライオニーは、傷ついて震えている従姉にたたみかける。
わからない、だれかはわからない、後ろからいきなり襲われて、顔なんて見えなかったからと、従姉はあいまいに首を振る。
それでも、あれはロビーよ、わたしにはわかるの、背の高さでわかったわ、とブライオニーは決めつける。
事件は法廷へ持ち込まれ、ブライオニーの自信たっぷりの証言で、ロビーの有罪は確定してしまう。
やがて、戦争が始まった。第二次世界大戦。
三年の懲役刑を終えたロビーは、戦場に送られる。
第二部で語られるのは、戦場で傷ついたロビーの過酷な運命だ。
彼を支えているのは、ポケットに潜ませている恋人セシーリアからの手紙。
帰ってきて。待っているから……
セシーリアは、ロビーを見捨てた家族とは縁を切り、看護婦として自立していた。
第三部では、姉の後を追うように見習い看護婦になったブライオニー。
戦場で負傷して送還されてきた傷病兵の看護に奮闘する日々。
それは、せめてものロビーへの罪滅ぼしのつもりだったのか……
さらに、第三部では、あの夏の事件の真実を読者は知ることになる。
嘘をついていたのは、ブライオニーだけではなかったということを。
彼女の嘘を隠れ蓑に、のうのうと生きている別の二人がいることを。
それでも、ブライオニーの嘘がなければ、ロビーと姉の人生が破壊されることはなかったのだ。
最終章は、1999年。77歳になったブライオニー。
彼女は作家となり、自分の罪と向き合い続けていた。
50人に膨れ上がった一族の待つ生家へ、主賓として招かれるが、そこにロビーと姉セシーリアの姿はない。
彼女は生涯かけて書き続けた、真実を告白する小説を携えていた……
ブライオニー、ロビー、セシーリアの三人の視点で物語は語られ、視点がかわるごとに読者に新しい事実が提示されていく。
読みだしたらやめられないおもしろさはあったが、少女の吐いた嘘があまりにも邪悪で、招いた結果が重大すぎて、読後もしばらく気が重かった。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:637
- ISBN:9784102157251
- 発売日:2018年12月22日
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