紅い芥子粒さん
レビュアー:
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コーラと呼ばれる奴隷少女が、法的な、しかし不当な主人から逃亡。こめかみに星型の傷跡。性質は活発、道を外れた行為も辞さない……コーラは逃げる。自由を求めて。
19世紀前半、南北戦争以前のアメリカが舞台。
十五歳の黒人奴隷の少女コーラが、自由を求めて逃亡する物語である。
コーラの祖母は、アフリカで生まれ育ったが、動物のように狩られ、奴隷船に載せられ、売買の果てにアメリカの大規模綿花農園の奴隷になった。
祖母は、白く波立つ海原のような綿花畑で、働きながら倒れて死んだ。
コーラの母は、まだ十歳だったコーラを置き去りにして、逃亡した。
さよならもいわずに。
奴隷は、使用人や奉公人とはちがう。鞭で打たれ、鎖につながれる。
黒人奴隷の所有者は白人で、その多くはキリスト教徒だ。
神の前で人はみな平等と、聖書はうたっているはず。こんなひどい仕打ちを、神は許し給うのかと思うが、それは人間に限ったことで、黒んぼなんか人間じゃねえと思えば、神様も目をつぶってくれたらしい。
コーラが逃亡奴隷になったのは、シーザー少年に誘われたからだった。
シーザーは、奴隷の逃亡を支援する「地下鉄道」の存在を知っていた。
奴隷州から自由州へ。州境を越えて北へ逃げれば自由になれる。
史実は、実際に地下に鉄道が敷かれていたわけではない。
「地下鉄道」とは、奴隷の逃亡を助ける地下組織の暗号名だった。
しかし、そこはフィクション。作者は、暗黒の地下に車両を走らせた。
蒸気機関車のこともあれば、トロッコのこともある。
どこに向かっているかわからない。ここではない、どこかへ。
逃亡は、命がけだった。死ぬか生きるか、殺すか殺されるか。
コーラは、逃げる途中で人を殺した。
おたずねものになり、懸賞金がかけられ、奴隷狩り人に追われる身になった。
地下駅で、コーラとシーザーが飛び乗ったのは、蒸気機関車がけん引する有蓋貨車。
まっくらな地下道を走り、さいしょに着いたのは、サウスカロライナだった。
南部の州だったが、工業化が進んでいたせいだろう。黒人に理解があるように思われた。
コーラは、白人家庭の奴隷になった。
家事や子守をしながら、人間らしいふるまいを身につけた。
逃亡奴隷に文字を教えてくれる秘密の学校もあった。
鞭で打たれることも鎖につながれることもない。
コーラは、はじめて自分の身体が自分のものになったような気がした。
ずっとここにいてもいいと思った。
サウスカロライナには、逃亡奴隷が集まっていた。白人よりも黒人の数のほうが多かった。
それは、白人にとって脅威だった。この文明社会で共通の言語を身につけ文字を学んだ黒人たちは、いつか白人にとってかわろうとするかもしれない。
黒人が増えすぎることは白人にとって得策ではない。
黒人への強制不妊手術が計画されていた。
文字を教えてくれていたその人は、コーラに親切そうに説く。
白人社会で生きる黒人女性にとって、子は荷物になる。不妊手術は、いま生きているあなたたちのしあわせのためなのよ、と。
だが、それは、黒人の未来を殺すことだ。
コーラは、ここにも黒人の自由はないことに気がついた。
追っ手も迫ってきていた。
コーラは、ふたたび地下鉄道で逃げた。
友がつかまり処刑されても、恋人が銃で撃たれ膝の上で死んでも、コーラは逃げ続けた……
手に汗握る、読みだしたらやめられない物語だった。
読んでいると、コーラと一緒に逃げて、コーラと危険や屈辱を分かち合いたいという思いが湧いてきた。
読み終えて、学校では教えてくれない、もう一つのアメリカ史を学んだと思った。
十五歳の黒人奴隷の少女コーラが、自由を求めて逃亡する物語である。
コーラの祖母は、アフリカで生まれ育ったが、動物のように狩られ、奴隷船に載せられ、売買の果てにアメリカの大規模綿花農園の奴隷になった。
祖母は、白く波立つ海原のような綿花畑で、働きながら倒れて死んだ。
コーラの母は、まだ十歳だったコーラを置き去りにして、逃亡した。
さよならもいわずに。
奴隷は、使用人や奉公人とはちがう。鞭で打たれ、鎖につながれる。
黒人奴隷の所有者は白人で、その多くはキリスト教徒だ。
神の前で人はみな平等と、聖書はうたっているはず。こんなひどい仕打ちを、神は許し給うのかと思うが、それは人間に限ったことで、黒んぼなんか人間じゃねえと思えば、神様も目をつぶってくれたらしい。
コーラが逃亡奴隷になったのは、シーザー少年に誘われたからだった。
シーザーは、奴隷の逃亡を支援する「地下鉄道」の存在を知っていた。
奴隷州から自由州へ。州境を越えて北へ逃げれば自由になれる。
史実は、実際に地下に鉄道が敷かれていたわけではない。
「地下鉄道」とは、奴隷の逃亡を助ける地下組織の暗号名だった。
しかし、そこはフィクション。作者は、暗黒の地下に車両を走らせた。
蒸気機関車のこともあれば、トロッコのこともある。
どこに向かっているかわからない。ここではない、どこかへ。
逃亡は、命がけだった。死ぬか生きるか、殺すか殺されるか。
コーラは、逃げる途中で人を殺した。
おたずねものになり、懸賞金がかけられ、奴隷狩り人に追われる身になった。
地下駅で、コーラとシーザーが飛び乗ったのは、蒸気機関車がけん引する有蓋貨車。
まっくらな地下道を走り、さいしょに着いたのは、サウスカロライナだった。
南部の州だったが、工業化が進んでいたせいだろう。黒人に理解があるように思われた。
コーラは、白人家庭の奴隷になった。
家事や子守をしながら、人間らしいふるまいを身につけた。
逃亡奴隷に文字を教えてくれる秘密の学校もあった。
鞭で打たれることも鎖につながれることもない。
コーラは、はじめて自分の身体が自分のものになったような気がした。
ずっとここにいてもいいと思った。
サウスカロライナには、逃亡奴隷が集まっていた。白人よりも黒人の数のほうが多かった。
それは、白人にとって脅威だった。この文明社会で共通の言語を身につけ文字を学んだ黒人たちは、いつか白人にとってかわろうとするかもしれない。
黒人が増えすぎることは白人にとって得策ではない。
黒人への強制不妊手術が計画されていた。
文字を教えてくれていたその人は、コーラに親切そうに説く。
白人社会で生きる黒人女性にとって、子は荷物になる。不妊手術は、いま生きているあなたたちのしあわせのためなのよ、と。
だが、それは、黒人の未来を殺すことだ。
コーラは、ここにも黒人の自由はないことに気がついた。
追っ手も迫ってきていた。
コーラは、ふたたび地下鉄道で逃げた。
友がつかまり処刑されても、恋人が銃で撃たれ膝の上で死んでも、コーラは逃げ続けた……
手に汗握る、読みだしたらやめられない物語だった。
読んでいると、コーラと一緒に逃げて、コーラと危険や屈辱を分かち合いたいという思いが湧いてきた。
読み終えて、学校では教えてくれない、もう一つのアメリカ史を学んだと思った。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:395
- ISBN:9784152097309
- 発売日:2017年12月06日
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