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darklyさん
darkly
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ブコウスキーが人生の最期に自分の人生観を込めた偉大なる三文小説
冴えない中年探偵ニック・ビレーンの事務所に絶世の美女が依頼に現れる。「セリーヌをつかまえてほしいのよ」訳の分からない依頼だが金さえもらえれば引き受けない手はない。そして次々と依頼が舞い込む。「赤い雀」を探して欲しい。若い嫁さんの浮気調査。宇宙人に付きまとわれている男からどうにかして欲しいという依頼。

調査しようという気はあるが、思うようには進まず、寄り道も多い。一見全く関係のないこれらの調査の間に何か関係があるやなしや。

伏線がないので当然回収もなし。探偵といっても推理らしい推理もなければ、調査らしい調査もなし。流されるままなんとなく日々が過ぎていく。関心があるのは酒と博打と女だけという典型的なろくでなし。登場人物もとんでもない。とっくの昔に死んだセリーヌ(「世の果ての旅」のセリーヌ)が出てくると思えば、正体不明の超自然的存在である「死の貴婦人」とやらが出てくる。挙句の果てには地球侵略を目論む宇宙人まで。

もちろん話はめちゃくちゃですが、パルプという題名がこの物語を解く鍵になるのかもしれません。パルプとは粗悪な紙に印刷された三文小説です。内容もお粗末な探偵・冒険・SF・エロ小説のことです。

では作者のチャールズ・ブコウスキーは遺作となったこの物語をなぜ最後に書いたのか。様々な想像ができると思います。まずはパルプ雑誌を茶化して書いたという可能性。パルプ雑誌などを金出して読むやつがいるんだ。ならばなんでも詰め込んだこの物語はどうだ?面白いだろ?俺の生きたアメリカなどこの程度のもんだったんだよ。

あるいは逆にパルプに対するオマージュのようなものなのかもしれません。良くも悪くもこれもアメリカ文化です。私のアメリカに対するイメージは洗練されて最高の知能が集まったインテリなアメリカと偏見と差別、暴力に満ちたおバカなアメリカが共存します。おバカなアメリカの一つの象徴がパルプなのであれば作者はそのおバカなアメリカを愛していてこの作品を捧げたのかもしれません。

しかし一番可能性がありそうなのは、作者の人生観を三文小説風に表現したのではないかというものです。人生なんてしかつめらしく語るものではない。そんなたいそうなものではない。そんなドラマティックなものでもない。ケセラセラ。なるようにしかならない。

最終的には作家、詩人として成功したブコウスキーですが、ドイツ移民で父親から虐待を受け、仕事も上手くいかず、飲酒がもとの病気に苦しむなど順風満帆な人生ではありませんでした。そんな彼の人生観を最後にこの偉大なる三文小説に込めたのではないでしょうか。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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