ぽんきちさん
レビュアー:
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幾重にも曲がりくねった道の先に。
時代小説。
主人公お藤は伊勢四日市の生まれ。
幼くして孤児となり、艱難辛苦の果てに江戸にたどり着いた。
この地で縁に恵まれ、口入屋の差配として一歩を踏み出す。
口入屋とはいわば人材斡旋業である。働きたい者と、働き手を必要とする者とをつなぐ仕事だ。
江戸の口入屋の得意先はほぼ武家と決まっていた。だが、お藤は商家に眼を付ける。ただ奉公人を紹介するのではない。時間を掛けて一から仕事を教え込み、すぐ使える形で送り込むのだ。商家では特に、男で台所仕事ができる者が求められていた。お藤が仕切る口入屋は次第に評判を呼び、商いは軌道に乗り始める。
だが、好事魔多しの言葉通り、もちろん、先には困難が待ち受けていた。
物語の柱の1つは、このお藤の商売を巡るお話。
目敏く商機を見つけ、女の細腕で荒波を渡っていく。
利にさといばかりではなく、人情のまろさもあってこそ、商いはうまく回る。たおやかでありつつしたたかなお藤の心の支えになっているのは、今は亡き祖母の教えである。
お藤には、潰れた家業をもう一度興す夢がある。
物語のもう1つの軸は、淡い恋物語である。
生まれ故郷で酷い目にあったお藤は、追手から必死で逃げる途中、1人の侍に助けられていた。その姿は幼い目に焼き付けられたが、相手の名も知らず、それきり会うこともなかった。
その恩人にお藤は江戸で巡り合う。けれどもその姿は、あの時の凛としたものではなかった。彼に何が起こったのか。
お藤の商いと恋は幾重にも曲がりくねり、時に2つが重なり、時により合わされる。
九十九藤(つづらふじ)は葛藤とも書く。葛籠(つづら:蔓で編んだ四角い衣装箱)を編むのに使ったことからそう称されるようになった。くねくねと幾度も折れ曲がる様から九十九の字があてられる。
お藤とお侍の最初の出会いにも九十九藤が絡んでいた。
しなやかで容易には切れないさまは、物語そのものを象徴しているようでもある。
お藤と一緒に泣いて笑って、九十九の曲道をたどった先に訪れる大団円。
爽やかな読み心地の一編。
*まったくの蛇足なのですが、いわゆる藤(ヤマフジ)とツヅラフジは種類が違っていて、フジは一般に、つる性の植物を指して使ったもののようです。表紙の花はヤマフジのもの。ツヅラフジの花はもうちょっと地味な感じのようですね。お藤の名前自体はヤマフジから採っているのでしょうから、これはこれでありと思いますが。
主人公お藤は伊勢四日市の生まれ。
幼くして孤児となり、艱難辛苦の果てに江戸にたどり着いた。
この地で縁に恵まれ、口入屋の差配として一歩を踏み出す。
口入屋とはいわば人材斡旋業である。働きたい者と、働き手を必要とする者とをつなぐ仕事だ。
江戸の口入屋の得意先はほぼ武家と決まっていた。だが、お藤は商家に眼を付ける。ただ奉公人を紹介するのではない。時間を掛けて一から仕事を教え込み、すぐ使える形で送り込むのだ。商家では特に、男で台所仕事ができる者が求められていた。お藤が仕切る口入屋は次第に評判を呼び、商いは軌道に乗り始める。
だが、好事魔多しの言葉通り、もちろん、先には困難が待ち受けていた。
物語の柱の1つは、このお藤の商売を巡るお話。
目敏く商機を見つけ、女の細腕で荒波を渡っていく。
利にさといばかりではなく、人情のまろさもあってこそ、商いはうまく回る。たおやかでありつつしたたかなお藤の心の支えになっているのは、今は亡き祖母の教えである。
お藤には、潰れた家業をもう一度興す夢がある。
物語のもう1つの軸は、淡い恋物語である。
生まれ故郷で酷い目にあったお藤は、追手から必死で逃げる途中、1人の侍に助けられていた。その姿は幼い目に焼き付けられたが、相手の名も知らず、それきり会うこともなかった。
その恩人にお藤は江戸で巡り合う。けれどもその姿は、あの時の凛としたものではなかった。彼に何が起こったのか。
お藤の商いと恋は幾重にも曲がりくねり、時に2つが重なり、時により合わされる。
九十九藤(つづらふじ)は葛藤とも書く。葛籠(つづら:蔓で編んだ四角い衣装箱)を編むのに使ったことからそう称されるようになった。くねくねと幾度も折れ曲がる様から九十九の字があてられる。
お藤とお侍の最初の出会いにも九十九藤が絡んでいた。
しなやかで容易には切れないさまは、物語そのものを象徴しているようでもある。
お藤と一緒に泣いて笑って、九十九の曲道をたどった先に訪れる大団円。
爽やかな読み心地の一編。
*まったくの蛇足なのですが、いわゆる藤(ヤマフジ)とツヅラフジは種類が違っていて、フジは一般に、つる性の植物を指して使ったもののようです。表紙の花はヤマフジのもの。ツヅラフジの花はもうちょっと地味な感じのようですね。お藤の名前自体はヤマフジから採っているのでしょうから、これはこれでありと思いますが。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- ぽんきち2021-09-27 09:27
2021年夏文庫フェアに挑戦!(2) ナツイチ https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no402/index.html?latest=20 9月30日まで!
あと3日。お立ち寄り歓迎です~♪クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:集英社
- ページ数:312
- ISBN:9784087716474
- 発売日:2016年02月26日
- 価格:1620円
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