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rodolfo1さん
rodolfo1
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夢、という不安定で危うい世界から、作家の抱える不安や葛藤を描き出す漱石屈指の名作。
夏目漱石作「夢十夜」を読みました。今も時折読み返すかつての文豪の作品と言えば、私の場合夏目漱石にとどめをさします。こういう名作が無料でDLできるとは、現代はとても良い時代ですね。

【第一夜】こんな夢を見た。で、小説は始まります。自分は女の枕元に座っていて、女は静かな声でもう死にますと言います。死んだら真珠貝で穴を掘って、星の破片を墓標に置いてくれと頼みました。きっとまた逢いに来るから100年待っていてくれと言いました。自分は女の墓の前で待っていました。すると女の墓から。。。死と再生がテーマでした。

【第二夜】こんな夢を見た。で、小説は始まります。侍は怒っていました。悟れなければ侍ではないと和尚に難詰され、懸命に座禅を組みます。悟って後に和尚を斬ろう、悟れなければ自刃しようと思い決めていました。しかし悟りは訪れず、ついに侍は。。。行き所のない焦燥感がテーマだったと思いました。

【第三夜】こんな夢を見た。で、小説は始まります。男は6歳の息子をおぶって夜の雨の中を歩いていました。しかし息子はいつの間にか目が潰れて青坊主になっていました。目が見えない息子はあたりの景色を理解しており、進む道を男に指示しました。早く森へ行って息子を捨ててしまおうと焦りましたが、息子は男の過去、現在、未来をことごとく把握していました。突然息子は。。。親殺しがテーマであるという書評が存在する章でした。

【第四夜】一人の爺さんが飲み屋で酒を飲んでいました。何を聞いても生返事しかしません。爺さんは飲み屋を出て、子供に行き逢います。手拭いを縒って地べたに置き、飴屋の笛を吹きならして、今に手拭いが蛇になるから見ていろと言いました。しかし蛇にはなりません。爺さんは手拭いを箱に入れ、箱の中で蛇になると言いながら、唄いながら河に辿り着きました。そのまま河へざぶざぶ入り。。。わけのわからない事を言いながらどんどん進んで行き、ついに姿が見えなくなるさまは、まるで人生のようでもありますね。どこか飄々とした寂寥感のある章でした。

【第五夜】こんな夢を見た。で、小説は始まります。神代の時代、戦に負けた戦士が敵の前に引き出され、降伏するか死ぬかと聞かれます。死ぬ、と言いながら、戦士は最後に女に会いたいと願いました。明け方までに女が来なければ会わずに殺されます。その頃女は戦士に会いに裸馬を飛ばしていました。夜の中を篝火を目指して一散に駆ける女の描写が見事です。しかし女は。。。

【第六夜】運慶が護国寺で仁王を彫っているというので見物に出かけました。見物客はみな明治の人間でした。客達はさまざまに運慶の下馬評をします。中の一人が、あれは彫っているのではなく、木の中に埋まっている仁王を彫り出しているのだと評しました。それを聞いた自分は。。。芸術作品というものの一端を見事に表した作品だと思いました。

【第七夜】男は大きな船に乗って何日も旅していました。旅客たちは外国人でした。大変心細く、こんな船にいるよりはいっそ身を投げて死んでしまおうかと思いました。一人の女が甲板で泣いており、悲しいのは自分だけではないのだと思いました。旅客達は星の話をしたり、唱歌を歌ったりしていましたが、船に乗っている事すら忘れている様子で、自分はますますつまらなくなり。。。漱石のイギリス時代の思いを如実に表した章でした。

【第八夜】男は床屋で髪をやってもらっていました。目の前の鏡の中に、さまざまな人々が映りこんでは去って行きました。床屋は面の金魚売りを見たかと尋ね、散髪が終わった男は。。。まさに漱石はこんな夢を見たのではないかという章でした。

【第九夜】今にも戦争が起こりそうなある時代、父親は深夜、若い母と3歳の子供を残してどこかへ出発しました。母親は子供を連れて深夜、神社に向かい、父親の無事を祈ってお百度を踏みます。しかし父親は。。。そんな悲しい話を夢の中で母から聞きました。あるいはその父親は自分の実の父親であったのかと思いました。

【第十夜】庄太郎が女にさらわれてから7日目の晩にふらりと戻り、高熱を発して人事不省になっていました。庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者です。唯一の道楽は、パナマ帽を被って水菓子屋で往来の女の顔を眺める事でした。眺めていない時は水菓子を褒めていました。ある夕方、一人の女が水菓子屋にやって来ました。庄太郎は女の服装と顔が気に入り、パナマ帽を脱いで丁寧に挨拶しました。女は水菓子の大きい籠詰を一つ買い、重いこと、と言い、庄太郎は自分が運ぼうと申し出、ついた先で女は庄太郎に不思議な事を言いました。。。

夏目漱石はいつも何かに追われる小説家でした。生前一応の成功を遂げてはいましたが、いつも彼の生活は綱渡りで、イギリス留学のトラウマをも引きずり、最期胃潰瘍から大出血して亡くなったのもそうしたストレスからだと思われました。特にこの小説は、夢、という不安定で危ういものをテーマにしており、漱石が抱える不安や葛藤、悩みと言ったものをあらわに表現した作品ではないかと思いました。文章の美しさや扱うイメージが漱石の他の作品にもまして際立っていました。是非一読をお勧めします。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:869 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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