ぽんきちさん
レビュアー:
▼
気高き獣、その名はロボ
『科学道100冊』の1冊。
おなじみ、「シートン動物記」に収録されたお話の1つ。
おそらくは、「シートン動物記」の中で、最もよく知られた話であり、「ロボ」はあるいは世界で一番有名なオオカミかもしれない。
ニューメキシコ北部の高原に、一帯を統べるハイイロオオカミがいる。
その名はロボ(Lobo)。スペイン語でオオカミを意味する。
賢く強いロボは、少数の精鋭をしたがえ、牧場で最上のウシを狩って美食を謳歌し、楽しみのためだけに多くのヒツジを殺した。
人々は知恵をしぼってわなを仕掛け、毒餌をまいたが、ロボたちは一向に騙されなかった。ロボの首には多額の懸賞金が掛けられ、多くの猟師が彼に挑んでは破れていた。
当時、作家・画家として暮らしていたシートンは、牧場主である友人から、ロボ退治に加わるように頼まれる。シートンは以前、カナダの開拓農場に住んでいたことがあり、オオカミ猟の経験もあった。
都会暮らしに飽きていた彼は、ロボを捕らえることにためらいを感じつつも、この申し出を受け、ニューメキシコ・クルンパへと向かう。
そこで彼を迎えたのは、予想よりもはるかに賢く、想像以上に手強いオオカミの王だった。
子ども向けに多くの版が出ている物語だが、本書の特徴は、全体の1/3強を、訳者でもある動物学者・今泉吉晴による解説が占めることだろう。「ロボは、ほんとうにいたの?」「西部と東部ってなにがちがうの?」「ハイイロオオカミって、どんなオオカミ?」といったQ&A形式で、オオカミについての基礎知識や当時の社会情勢、シートンの人となりをやさしく説いている。
シートンの著作から採った絵や写真が豊富に収録されている点も特筆に値する。シートンの画家としての確かな技量、自然観察者としての優れた眼を十分に感じさせる。また、ボックスカメラと呼ばれるカメラでシートン自身が撮影したロボらの写真が見られるのも興味深い。
なお、これまでの訳書では、ロボの暮らした地をカランポーと表記するのが通例であったが、訳者が現地で調べたところによれば、かつてはCurumpawとも綴られたが、現在はCorumpaと表記され、発音としてはクルンパが近いとのこと。これは先住民族の言葉で「奥地」を意味するそうである。
多くの人の胸を打ったこの物語は、周知のように悲劇で終わる。
ロボには1つ「弱点」があった。愛する白き雌オオカミ、ブランカ。
注意深いロボに比べて、ブランカは少し用心に欠けるところがあった。シートンはその隙をついて、まんまとブランカを捕らえ、殺してしまう。そしてブランカの匂いを使ってロボをおびき寄せたのだ。
誇り高きロボは愛するもののために命を落とす。
後年、シートンの元に、10歳の少女が手紙を寄せたという。
これまでどれだけの人が、強いオオカミに魅かれ、その悲劇的な死に胸を痛めたことだろうか。
シートンは、ロボの話を含めて動物記の話を「ほんとうの話」と述べている。
個人的にはこのお話、いささか「出来過ぎ」のように感じてしまうのだが、それでもこの物語に描かれたオオカミの姿の魅力が削がれることはない。
野山を馳せ、人に媚びず、仲間を愛する気高い獣。
その姿は脳裏を駆け巡り続ける。
シートンは、ロボの話を含む動物記で名を成し、全米を講演で回った後、ボーイスカウトを始めとする子供と自然をつなぐ活動に没頭していく。
シートン自身にとっても、ロボの存在は生涯、忘れえぬものであったことだろう。
*日本にシートンを紹介したのは動物学者の平岩米吉です。彼自身、オオカミについての著作(『狼―その生態と歴史』)もあります。
おなじみ、「シートン動物記」に収録されたお話の1つ。
おそらくは、「シートン動物記」の中で、最もよく知られた話であり、「ロボ」はあるいは世界で一番有名なオオカミかもしれない。
ニューメキシコ北部の高原に、一帯を統べるハイイロオオカミがいる。
その名はロボ(Lobo)。スペイン語でオオカミを意味する。
賢く強いロボは、少数の精鋭をしたがえ、牧場で最上のウシを狩って美食を謳歌し、楽しみのためだけに多くのヒツジを殺した。
人々は知恵をしぼってわなを仕掛け、毒餌をまいたが、ロボたちは一向に騙されなかった。ロボの首には多額の懸賞金が掛けられ、多くの猟師が彼に挑んでは破れていた。
当時、作家・画家として暮らしていたシートンは、牧場主である友人から、ロボ退治に加わるように頼まれる。シートンは以前、カナダの開拓農場に住んでいたことがあり、オオカミ猟の経験もあった。
都会暮らしに飽きていた彼は、ロボを捕らえることにためらいを感じつつも、この申し出を受け、ニューメキシコ・クルンパへと向かう。
そこで彼を迎えたのは、予想よりもはるかに賢く、想像以上に手強いオオカミの王だった。
子ども向けに多くの版が出ている物語だが、本書の特徴は、全体の1/3強を、訳者でもある動物学者・今泉吉晴による解説が占めることだろう。「ロボは、ほんとうにいたの?」「西部と東部ってなにがちがうの?」「ハイイロオオカミって、どんなオオカミ?」といったQ&A形式で、オオカミについての基礎知識や当時の社会情勢、シートンの人となりをやさしく説いている。
シートンの著作から採った絵や写真が豊富に収録されている点も特筆に値する。シートンの画家としての確かな技量、自然観察者としての優れた眼を十分に感じさせる。また、ボックスカメラと呼ばれるカメラでシートン自身が撮影したロボらの写真が見られるのも興味深い。
なお、これまでの訳書では、ロボの暮らした地をカランポーと表記するのが通例であったが、訳者が現地で調べたところによれば、かつてはCurumpawとも綴られたが、現在はCorumpaと表記され、発音としてはクルンパが近いとのこと。これは先住民族の言葉で「奥地」を意味するそうである。
多くの人の胸を打ったこの物語は、周知のように悲劇で終わる。
ロボには1つ「弱点」があった。愛する白き雌オオカミ、ブランカ。
注意深いロボに比べて、ブランカは少し用心に欠けるところがあった。シートンはその隙をついて、まんまとブランカを捕らえ、殺してしまう。そしてブランカの匂いを使ってロボをおびき寄せたのだ。
誇り高きロボは愛するもののために命を落とす。
後年、シートンの元に、10歳の少女が手紙を寄せたという。
あなたは、最低のひきょうもので、残酷な人です。
これまでどれだけの人が、強いオオカミに魅かれ、その悲劇的な死に胸を痛めたことだろうか。
シートンは、ロボの話を含めて動物記の話を「ほんとうの話」と述べている。
個人的にはこのお話、いささか「出来過ぎ」のように感じてしまうのだが、それでもこの物語に描かれたオオカミの姿の魅力が削がれることはない。
野山を馳せ、人に媚びず、仲間を愛する気高い獣。
その姿は脳裏を駆け巡り続ける。
シートンは、ロボの話を含む動物記で名を成し、全米を講演で回った後、ボーイスカウトを始めとする子供と自然をつなぐ活動に没頭していく。
シートン自身にとっても、ロボの存在は生涯、忘れえぬものであったことだろう。
*日本にシートンを紹介したのは動物学者の平岩米吉です。彼自身、オオカミについての著作(『狼―その生態と歴史』)もあります。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
- p-mama2020-03-30 19:35
あぁ、懐かしい!
その昔、息子が読書感想文に選び、その感想文のあまりのお粗末さに絶句したのを思い出しました(^_^;。
彼は感想文の字数制限をクリアするために極力ひらがなを使い(だって漢字で書くと原稿用紙あまっちゃうじゃん!)、定番の「とてもおもしろかったです」で感想文の最後を締めくくりました。
自分が幼い頃読んで涙した本なのに…と悲しいのを通り越してもう笑うしかなく…。
私がその昔読んだ本には無かった”訳者の解説”を読んでみたくてAmazonポチッとしてしまいました。
本が届くのが楽しみです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:童心社
- ページ数:175
- ISBN:9784494009909
- 発売日:2010年02月01日
- 価格:1155円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















