すずはら なずなさん
レビュアー:
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ギャツビーが手にしたものは何だったのだろう。
ニックの借りた家の隣に大富豪が住んでいて 毎日盛大なパーティーが催されています。
特に招待されていなくても 「知り合い」を入口で見つけたら そのパーティーに潜り込めるというオープンさから、いつも大勢の客でごった返し、酔った客たちの乱痴気騒ぎ。女優、監督、有名人、著名人、金持ち夫婦。着飾った若い娘たち。
主のギャツビーはどうやって これほどの財を成したのか 謎に包まれた男。
客たちの誰も、その実態を知らず、怪しい稼業に手を出して成り上がったのだとか 人を殺したこともあるとか、まことしやかに噂されています。
彼のパーティーなのに、誰も彼を探さないし彼も客に挨拶しに出て来る様子もない。そこには 主への愛情も友情も敬意もないことが 読者にも、新参者のニックにもよく解ります。
どうでもいい大勢の客の中、ジェイ・ギャツビーがニックを招待したのは 深い理由があったことがやがて解ります。
ニックのまたいとこ、デイズィに会いたい一心で、ギャツビーは「きっかけ」をずっと待っていて、やっと隣に「またいとこ」が越して来たことで行動を起こします。
とはいえ、彼の流儀なのか、シャイな性格のせいなのか、何かに気後れしているのか、デイズィの住む家が対岸に見える場所に豪邸を得た後も、決して直接は声を掛けずに来、ここでやっと、ニックに「偶然ぽい」再会を設定してもらうのです。
ディズィとギャツビーは5年前まで恋人だったのですが、彼が戦地で功績をあげている間に、ディズィはトムと結婚、今は裕福な家系で何不自由なく育った「綺麗なお嬢様」から、同じくもともと裕福な家系を継いだトムの美しく気ままな妻となっています。
娘がひとりいますが 「女の子は綺麗なバカが良い」というディズィのもと、どのように育つのでしょうね。(逆に賢く育てばよいのだけれど)
「貧しい男だから裕福なお嬢様とは結婚できないのだ」そう思ったギャツビーは その後ひたすら成り上がりの道を歩むのです。アメリカンドリーム。
ハイクラスな車、プール付きの豪邸、高価な調度、衣服。派手なパーティー、群がる人たち。
多くの物を手にして、やっとディズィに再会を果たし、自分の変わらぬ愛と相手の想いを「確信」するのです。ディズィはトムと結婚はしたけれど、決して愛したことはないはずだ。だって、ずっと自分とディズィは愛し合っていたのだから、と。
冷めた目で読むと、思い込みの激しいストーカーの話とも言え、彼がスマートな男前で、ちゃんと成り上がったから良いものの、そうでなければ 大変残念な物語になってしまうところでしょう。
でも、だからこそ。
結局何も得られなかったギャツビーの寂しい結末が 読み手にもズシリと来るのです。
ニックのギャツビーへの気持ちをとってみても、ずっとどこか一線をひいていて、本当の「友情」とは言えなかったけれど、彼の最期を一人でも一緒に悲しめないかと 連絡に心と時間と手間を惜しまず費やすのには共感を覚えます。あんなに華やかで賑やかな世界の中心の人だったはずが、実は嘘や虚構しかない人々の上っ面だけの世界にぽつんと居ただけだったことを知り、そんなギャツビーの寂しい人生を思うと 心から彼を愛せたのかもしれません。今さら、なんですが。
美しい妻がありながら平気で浮気をするトム、それを解っていても今の裕福な生活に変化は求めないディズィ。ゴルファーとして自立したしっかり者の女友達、ジョーダンでさえ、富裕層の生き方や感覚から外れはしません。
貧しい人を一人「うっかり」ひき殺したって、愛人が事故で死んだって、自分の罪を被ったまま誰かが(自分を深く愛した男が)殺されたって日常は乱されはせず、金に護られた華やかで退屈な日々は 続くのです。
映画を何本も制作されたのは「絵になる」ものが多いからもあると思います。時代の雰囲気、豪華な舞台装置、美男美女、衣装。読者がどれだけギャツビーを好きになれるかがこの作品のポイントではあると思いますが 多くの読者は語り手のニックと同じ目線でずっと彼を興味深く追いながら金に塗れた薄っぺらな世界の表層をはぎ取って、ギャツビーの欲しかった世界、そして得たもの失ったものを想うのだと思います。
読了後、考えれば考えるほど、思い起こせば思い起こすほど、深みの増す物語だと思います。
眼医者の看板に描かれた(だけの)大きな「眼」が全てを見ているということと、パーティーの騒ぎの中、一人だけ書斎に居て本の話をしていた「ふくろうみたいな男」だけが ギャツビーの葬儀にやって来た、という箇所が印象的でした。
特に招待されていなくても 「知り合い」を入口で見つけたら そのパーティーに潜り込めるというオープンさから、いつも大勢の客でごった返し、酔った客たちの乱痴気騒ぎ。女優、監督、有名人、著名人、金持ち夫婦。着飾った若い娘たち。
主のギャツビーはどうやって これほどの財を成したのか 謎に包まれた男。
客たちの誰も、その実態を知らず、怪しい稼業に手を出して成り上がったのだとか 人を殺したこともあるとか、まことしやかに噂されています。
彼のパーティーなのに、誰も彼を探さないし彼も客に挨拶しに出て来る様子もない。そこには 主への愛情も友情も敬意もないことが 読者にも、新参者のニックにもよく解ります。
どうでもいい大勢の客の中、ジェイ・ギャツビーがニックを招待したのは 深い理由があったことがやがて解ります。
ニックのまたいとこ、デイズィに会いたい一心で、ギャツビーは「きっかけ」をずっと待っていて、やっと隣に「またいとこ」が越して来たことで行動を起こします。
とはいえ、彼の流儀なのか、シャイな性格のせいなのか、何かに気後れしているのか、デイズィの住む家が対岸に見える場所に豪邸を得た後も、決して直接は声を掛けずに来、ここでやっと、ニックに「偶然ぽい」再会を設定してもらうのです。
ディズィとギャツビーは5年前まで恋人だったのですが、彼が戦地で功績をあげている間に、ディズィはトムと結婚、今は裕福な家系で何不自由なく育った「綺麗なお嬢様」から、同じくもともと裕福な家系を継いだトムの美しく気ままな妻となっています。
娘がひとりいますが 「女の子は綺麗なバカが良い」というディズィのもと、どのように育つのでしょうね。(逆に賢く育てばよいのだけれど)
「貧しい男だから裕福なお嬢様とは結婚できないのだ」そう思ったギャツビーは その後ひたすら成り上がりの道を歩むのです。アメリカンドリーム。
ハイクラスな車、プール付きの豪邸、高価な調度、衣服。派手なパーティー、群がる人たち。
多くの物を手にして、やっとディズィに再会を果たし、自分の変わらぬ愛と相手の想いを「確信」するのです。ディズィはトムと結婚はしたけれど、決して愛したことはないはずだ。だって、ずっと自分とディズィは愛し合っていたのだから、と。
冷めた目で読むと、思い込みの激しいストーカーの話とも言え、彼がスマートな男前で、ちゃんと成り上がったから良いものの、そうでなければ 大変残念な物語になってしまうところでしょう。
でも、だからこそ。
結局何も得られなかったギャツビーの寂しい結末が 読み手にもズシリと来るのです。
ニックのギャツビーへの気持ちをとってみても、ずっとどこか一線をひいていて、本当の「友情」とは言えなかったけれど、彼の最期を一人でも一緒に悲しめないかと 連絡に心と時間と手間を惜しまず費やすのには共感を覚えます。あんなに華やかで賑やかな世界の中心の人だったはずが、実は嘘や虚構しかない人々の上っ面だけの世界にぽつんと居ただけだったことを知り、そんなギャツビーの寂しい人生を思うと 心から彼を愛せたのかもしれません。今さら、なんですが。
美しい妻がありながら平気で浮気をするトム、それを解っていても今の裕福な生活に変化は求めないディズィ。ゴルファーとして自立したしっかり者の女友達、ジョーダンでさえ、富裕層の生き方や感覚から外れはしません。
貧しい人を一人「うっかり」ひき殺したって、愛人が事故で死んだって、自分の罪を被ったまま誰かが(自分を深く愛した男が)殺されたって日常は乱されはせず、金に護られた華やかで退屈な日々は 続くのです。
映画を何本も制作されたのは「絵になる」ものが多いからもあると思います。時代の雰囲気、豪華な舞台装置、美男美女、衣装。読者がどれだけギャツビーを好きになれるかがこの作品のポイントではあると思いますが 多くの読者は語り手のニックと同じ目線でずっと彼を興味深く追いながら金に塗れた薄っぺらな世界の表層をはぎ取って、ギャツビーの欲しかった世界、そして得たもの失ったものを想うのだと思います。
読了後、考えれば考えるほど、思い起こせば思い起こすほど、深みの増す物語だと思います。
眼医者の看板に描かれた(だけの)大きな「眼」が全てを見ているということと、パーティーの騒ぎの中、一人だけ書斎に居て本の話をしていた「ふくろうみたいな男」だけが ギャツビーの葬儀にやって来た、という箇所が印象的でした。
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電車通勤になって 少しずつでも一日のうちに本を読む時間ができました。これからも マイペースで感想を書いていこうと思います。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:262
- ISBN:9784102063019
- 発売日:1989年05月01日
- 価格:460円
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