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かもめ通信
レビュアー:
わたしはいったいいつ「空色」を見失ってしまったんだろう? 祝 #岩波少年文庫 #創刊70周年
随分昔の話なので、細かいことはあまり覚えていないのだけれど、『ヨーロッパのどこかで』Valahol Európában という古い映画を観たことがある。
戦争浮浪児たちを描いたハンガリーの映画で、その脚本を書いたのが、作家でもあり、映画理論家でもあったバラージュだった。

その映画がとても印象的だったので、いつかバラージュの書いたものも読んでみたいと思っていたのだけれど、そのバラージュとこの『ほんとうの空色』の作者がイコールで結ばれるまでに随分長い時間がかかってしまった。

そしてこの本を読みたい本のリストに入れてから実際に読むまでにもまた。

 ******

母と2人で暮らす貧しい少年が、クラスメートの絵の具を失くしたことをきっかけに、きれいな青い花から取った「ほんとうの空色」を手に入れる。

画用紙にも、板にも、その「空色」を塗ると、そこには空が。
太陽がさんさんと輝き、夜は星がきらめき、雨の日には……。

ひとりぼっちだった少年はその「空色」を手に入れたことをきっかけに、仲間を得て、さまざまな冒険もする。



もしも幼い頃にこの物語に出逢っていたら、おそらく純粋に「空色」の絵の具に憧れて、私ならどこに塗ろうかと考えたに違いない。


あるいはもしも、もう少し長じた思春期の頃にこの物語に出逢っていたら、この「ほんとうの空色」は、幼い頃誰もが心の中に密かに持っていた宝物のことだと考えて、少しずつ失われていく「ほんとうの空色」に心を痛めながらも、自分にとっての「空色」はなんだろうかと思い巡らしたかもしれない。


宝物はいったいいつ消えてしまったのだろう。
大人の世界の扉が開いた瞬間はいつなんだろうか……。


けれども、そうしたあれこれはやはり想像の域を出ず、とうの昔に私は、自分が宝物を持っていたかどうかすら思い出せない大人になってしまっている。
そんな私がこの物語を読むとき、やはり作家について考えずにはいられない。

第1次大戦終結後の1919年、バラージュはハンガリーからウィーンに亡命した。
この亡命時代に彼は、映画批評家として活動するようになった。
彼の代表的な著作の一つ「視覚的人間」はこの時期に書かれたものであり、彼が最も気に入っていたという「ほんとうの空色」が書かれたのもまたこの時期だ。

屋根裏部屋にある大きな道具箱のふたの内側を「ほんとうの空色」で塗ったことによって、少年は自分だけの世界と秘密を手に入れた。
そして私はここに、作家が映画に見出したであろう「空色」を重ねて見て、思わず頬を緩める。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2020-03-02 07:14

    <祝 #岩波少年文庫 #創刊70周年 読書会>
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no379/index.html?latest=20
    はじめました。
    のんびりゆっくりやっていきますので、
    皆様ぜひご参加ください。

  2. No Image

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