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ぽんきち
レビュアー:
ロンドン塔で子供2人を殺させた醜い王、リチャード三世
シェイクスピア初期の戯曲。
16世紀末の完成以来、ピカレスク(悪漢)ロマンとして、今日に至るまで、さまざまな脚色で上演され続けている。歴史劇としては「ヘンリー六世・三部作」の続編にあたる。
醜い「せむし」として嘲笑われてきたグロスター公リチャードが、権力を手にすることで周囲のすべての人々に復讐を遂げようと野心を燃やし、暴虐と謀略によって王位につき、しかしやがては転落していくまでの物語である。
時は薔薇戦争の時代で、リチャード三世はヨーク家側である。父や兄とともに、ランカスター家と血みどろの争いを繰り広げる。
リチャード三世はランカスター側の王太子を謀殺。その妃を篭絡するも、のちにこれを殺す。
ヨーク家長兄の死をきっかけに、権力の座に昇りつめようと企んだ彼は、身内にも刃を向けていく。まずは次兄を排除する。まだ幼い長兄の息子2人は、不義の子であり、王家の血を引いていないと言い立て、陰気なロンドン塔に幽閉したうえ、殺人者に命じて殺させてしまう。
世に悪事は数多くあれど、やはり万人が非道と認めるのは子供殺しではなかろうか。
そうまでしても彼が権力に執着したのは、自らの醜い容姿に原因がある、というのがシェイクスピアの言わんとするところなのだろうが、さて。

実際、リチャード三世が非道な王だったのかといえば、実はそうではなかったようで、ジョゼフィン・テイの『時の娘』もこれを題材としている。
巻末の解説によれば、シェイクスピアは史実を取り込みつつも、時系列などを巧みに操作して、「極悪人リチャード三世」の肖像を作り上げている。
リチャード三世を破ったヘンリー七世は、ランカスター側であり、シェイクスピアの時代の女王、エリザベス一世の祖父にあたる。リチャード三世を悪党に仕立て上げたのはヘンリー八世、つまりエリザベス一世の父の時代の歴史家たちと言われる。
シェイクスピアはそれを踏襲したわけで、そこにはもちろん、エリザベス一世の「ご機嫌取り」の要素もあっただろう。
だが、おそらくはそれだけではなく、歴史上の人物の姿を借りて、全き悪、この上ない悪を描いてみたいという、作家としての欲望もあったのではなかろうか。
どれだけ貶してもよいリチャード三世は、その恰好な標的だったというところだろう。
「せむし」という表現は現代ではなかなか使いにくいところもあろうが、鬱屈し、世の中への怒りを滾らせている人物というのは、現代でも、さらにはこの先も、描き甲斐のある人物像として、上演され続けていくのだろう。

角川文庫版は河合祥一郎訳。原文のリズムにこだわった訳が特徴。シェイクスピアの戯曲には、得てして版がいくつも存在し、どのテキストを採用するかの判断が付きまとうが、これに関する注も詳細。
ただ、以下は、訳がどうこうという話ではないが、王家の名前でよくあるように、同じ名前の登場人物が多く、文字で読んでいるとわかりにくい。ランカスター家の王太子も、ヨーク家の長兄も、その息子もエドワード、2王子の弟の方はリチャードといった具合で、さらっと読んでいると誰が誰なのかわからなくなる。このあたりは実際に劇で見た方が格段にわかりやすいだろうと思う。


*<思い出したように時々シェイクスピア・シリーズ>
『ロミオとジュリエット』(新潮文庫・中野好夫訳)
『ヴェニスの商人』(岩波文庫・中野好夫訳)
『オセロー』(新潮文庫・福田恒存訳)
『ハムレット』(白水Uブックス・小田島雄志訳)
『マクベス』(ちくま文庫・松岡和子訳)
『リア王』(岩波文庫・斎藤勇訳)
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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